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リンドウノミチヤ
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KYRIE Ⅰ  ~儚く美しい聖なる時代~

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第1章 邂逅~sione2~




 史緒音が下界に戻って一度だけ統也は彼女に会った。最後に別れた頃と何ら変わらない、時として能天気にすら見える笑顔で挨拶をした統也を見て史緒音は、明日自分は父親の国へ旅立つこと、二度と戻る意思はない事を告げた。

 統也は暫く黙っていたが、やがて、少し付き合ってくれないかと言った。

 彼は史緒音を後ろに乗せバイクを走らせた。数時間のツーリングの後波止場に着くと、海を見ながら何を話すこともなくぶらぶらと歩いた。二人が昔、気が向くとそうしていたのと同じ様に。
 陽がとっぷりとくれて波の音しかしなくなった頃彼はとうとう言った。

「一度、俺と寝てみないか?」

 史緒音は承諾したが事はそう簡単には行かなかった。彼女は昔から人に対象物として見られることを死ぬほど嫌悪していた。それは相手が男でも女でも関係なく、心が氷の如く冷えるのを感じるのだ。そしていざ触れられるとなると恐慌状態になった。史緒音は少し、いやかなりの抵抗を試みたが統也は力を緩めなかった。そして事態は危うく深刻な状況に陥るところだったが、史緒音の叫び声に驚いて覚めた統也が手を離した。史緒音は彼の鳩尾に蹴りを食らわすと素早く離れ、まるで路上の嘔吐物のように一瞥すると外の闇へ消えた。

 後に残された統也は最初の憤怒が去ると今迄に一度も味わったことのない惨めな気分に陥った。
 周りがどう思おうと、彼は何所か生真面目で、自分の大切に思うものは後生大事にしまって置くような繊細な部分があった。その、一番大事なものを自分で台無しにしたばかりか相手は生ゴミでも見るような目つきで去っていった。彼女は二度と自分を許さないだろう。

 彼は惨めな気分のまま長い時間座り込んでいたが、ふと、外に飛び出して行った史緒音は帰りの電車賃を持っていたのだろうかと思い、自力で帰ろうにも終電の時間はとっくに過ぎている事に気付いた。

 統也は少し迷っていたが立ち上がった・・・史緒音が許そうと許すまいと、このまま永久に別れる等、あんまりではないか。