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リンドウノミチヤ
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KYRIE Ⅰ  ~儚く美しい聖なる時代~

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第1章 邂逅~touya~




 階下から兄が大声で呼ぶ声が聞こえた。榛統也(ハシバミトウヤ)は生返事をしながら端末を開いた。

 この頃、兄は故郷で早々に身を固めるとばかり思っていた弟がその気配を見せないどころか外国と日本を行き来し一向に定住しようとしない事に業を煮やしているらしい。最近懇意の筋からしきりに見合い話を持ってくる兄の事を考え統也は苦笑する。
 浮いた話がない訳ではない。学生時代に付き合っていた女性とよりを戻していた時期もあったが暫くして彼女の方から別れを切り出された。少し前まで付き合っていた女性レーサーとは結構長い関係だったがお互いの生活習慣などの違いのせいか何となく空中分解してしまった感がある。周りからそろそろお前手堅くヨメさんでも貰えよ、などと諭されると、考えとくわ、と流したりしていた。実際多忙極まりない彼にとってその手の話は二の次だった。

 彼は27歳。凄腕のメカニックとしてその世界では名を馳せており、既に欧州のレーシングチームに抜擢されていた。

 草影史緒音(クサカゲシオネ)とはあの時一度会ったきり。

「もしお前とさ、又出会ってお前がその気なら、その時はヨメさんに貰ってやるよ」

「そんな事は絶対ない、私は一瞬でお前のことを忘れてやる」

 そして振り向きもせず去って行った史緒音の背を見送った事はとうに封印していた。

 統也は再び端末の画面を眺めた。自分の所属するレーシングチームが欧州の企業と契約締結したというニュースだった。彼にとっては既知の情報であり今更特に興味を引いた訳でもなかったがそのまま検索を続けていく。

 ふと、ある画像が視界に止まった。背後から撃たれた様な衝撃を感じ、それが何故かも分からないまま画面を凝視する。
 画像の群集の片隅にかすかに写る人物。女。丈高く隙のない背。細い顎を覆う肩より少し上で切り揃えた亜麻色の髪。

 それは、かつて自分が知っていた人物とはまるで違っていた。しかし決して見間違える訳がなかった。

 彼は、身動き出来なくなった。遠い筈の記憶と感情が一気に押し寄せてきた。