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架空植物園

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      *              *

私は今、早期退職をして趣味の毎日である。私の性格上、この生活が一番合っているのではないかと思う。幸いというか親の遺産の家と少しの畑が自分のものになり、畑は大きなビニールハウスを建てて、半分が研究所、残り半分を植栽場にして植物の巨大化の研究をしている。

自然交配では時間がかかるので、遺伝子操作に頼ることになるが、それぞれに名前はあるのだが俗に言われる雑草、野草などと現在流通している植物を利用している。

「ぼうちゃん、どうかね研究のほうは」
幼なじみのヒロ君が時々様子を見に来る。ヒロ君は近くで長く農業を続けているので、時々研究用に野菜の苗や種を貰ったりしている仲だ。
「相変わらず役に立たないものばかりだよう」
「そこがいいんじゃないか、ぼうちゃんらしくて」
ヒロ君はそう言って笑った。
「ああ、あれか、すごいじゃないか」
ヒロ君の視線は長年の夢である落下傘を見上げている。

要するに巨大タンポポの花が綿毛になったものだ。綿毛になった状態に名前をつけようとしたが、結局落下傘という名に落ち着いた。これにぶら下がって浮いてみたいと思ったが、綿毛1本ではあまりに力が弱い。だから全部の綿毛を接着剤で止めてある。その全体を使っても大人は無理だろうと思っている。だから小さい子供の協力者が欲しかったところだった。

「ヒロ君の一番下の子はいくつになった?」
「ああ、幼稚園に行き始めたよ4歳かな」
「男の子だっけ」
「そう、やんちゃでねえ」
「ちょうどいいかな」
「え、何が」
「実験、あれに綱をつけてどのくらいのものが持ち上がるか実験したいんだ。でも物じゃなく人間のほうが夢があるかなあと思って」
「へーっ、面白そうだな、やってみようよ」

私は嬉しさを抑えきれない。外に出て風の状態を見る。あまり強い風だとどうなるか予想がつかないし、全然風が無いと浮き上がらないだろう。ヒロ君も出て来た。

「いいんじゃない、オレ息子を連れてくるよ」
ヒロ君も嬉しそうな顔をして家に戻って行った。
私は軽くて丈夫な紐を探した。やはりこれだとうと荷造り用のビニールを縒り合わせて強度を確かめ、巨大タンポポの茎に括りつけた。茎は中空なので途中で潰れて紐が緩むと困るので潰してから厳重に縛ってから切り離した。

そうっと外に出した。落下傘が少し浮いたのが嬉しかった。私は自分がぶら下がりたかったので少し引いて見た。少しの抵抗があったが、やはり無理だろうと思った。

「ほらあれだよ」
ヒロ君の声がして、小さな子供と一緒に走って来る。

傍に来て落下傘を見上げる子供の目は黒目がさらに大きくなったようだ。
「つかまるのは、この結び目がいいね、しっかり握ってね」
私は茎を握っていた自分の手を恐る恐るつかまる小さな子供の手に握らせた。
そしてそうっと手を放した。落下傘が風を受けて上に上がった。
「わーっ」
子供が歓声を上げたが、地上から30?ほど浮いただけだった。少し移動はしているが、何か物足りなかった。
「そうだ、土手に行ってみよう」
ヒロ君も、少し物足りなく思ったのか私の思っていたことを代弁してくれた。

作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川