架空植物園
水量は少ないものの、洪水の時のために大きめに作られた堤防だろう、草に覆われたなだらかな土手がある。私は落下傘を支えていた手が引っ張られるのを感じた。土手に沿って下から風が来る。私はヒロ君に紐を持って下に降りて貰った。
「いいかーい」
「いいよう」
小さな子供と一緒に握っていた手を放す。
大きく浮いた!
「わーっ」
子供がさっきより大きな声を上げた。
「引っ張るよう」
ヒロ君が、まるで凧揚げのように紐を引っ張ると、落下傘が移動する。
「おーっ」
私も自分が浮いているような気分で声を上げた。すぐに自分があの子だったらと思うと、その高さが怖く感じた。
「ヒロ君、もう降ろそうか?」
「いや、まだやるよ、いいだろうシン?」
子供はシン君というらしい。
「もっとやるう」
シン君が答える。
まるで三人の子供のようになって土手を移動した。
強い風が吹いてきた、と思う間もなく落下傘が傾いた。
「あっ!」
だが、シン君はしがみついていて大丈夫のようだった。
綿毛が一本抜けてどこかへ飛んで行った。そして時間をおいて少しずつ綿毛が抜けて飛んで行く。その分シン君の身体は地面に近くなってきて、無事着地した。
三人で飛んで行った綿毛の行方を見守り、見えなくなるとお互いの顔を見てテレ笑いのようなものがあった。
「面白かったかシン?」
「うん、面白かった、手が痛いけど」
「そうか、どれどれ」
ヒロ君がシン君の手を広げてみると、赤くなっていた。そして顔も興奮のせいか赤くなっている。
「でも、またやりたい」
シン君が言うようにまた来年もやって見たいと思ったが、ハウスにあるあの巨大タンポポはもう寿命で枯れてしますはずだった。飛んでいった綿毛についている種子は、ハウス内の研究では今まで芽が出たことは無かった。でも、自然の条件のもと、もしかしたら芽が出るかもしれないし、この土手に巨大なタンポポの群生が見られるかもしれない。私は夢がかなったので、今やっている別の研究に力を入れようと思った。
了