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架空植物園

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各戸主の分だけの樹皮を持って、吉右衛門は村に戻った。さっさく皆を自宅に呼び寄せ、ことの次第を報告した。
樹皮を手に取ってしみじみと見ていた一人が言った。
「これは龍神さまの鱗じゃなかろうか」
「おう!」
「なるほど!」

座が盛り上がり、そして静かになった。
「では、龍神様は……」
「うーん」
「龍神様といっても、姿を見せない神様ではなく実体のある大蛇だったから、自らの死期を悟って本物の神様にお願いをしたのかもしれんな」
「そうか、村人の窮状を知っていて、こうしたのだろう」

急遽酒が用意され、それぞれ樹皮を囓りながら龍神様の通夜になった。皆、体の奥底から力が湧いてくるような気分を感じていた。来年の米の収穫があるまで、皆無事であると確信に似た思いもあった。

翌朝、村人総出で収穫に向かった。樹皮を食べたものは、朝飯も摂りたいとは思わなかった。それどころか、樹皮1枚で他に何も食べずに何日も持つような気もある。樹皮を麻袋に詰めると何十袋かになった。それを持ち帰り村長宅の倉に収めた。皆、米の豊作時のような歓喜の表情をしている。

そして次の日、倒木のあった場所に倒木のかわりに鱗の無い大蛇の死骸があった。村では沼のほとりに埋葬し、もともと祠のあった場所に立派な神社を建てた。それから数年後に埋葬した場所から松の木が生えたきた。その松の木が成長するにつれ、樹皮の白い松であることがわかった。白龍の松……皆はそう呼んでいる。




作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川