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架空植物園

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指輪の木



珍しく11月末に雪が降った。森の木は白い雪の葉と白い雪の花を咲かせた。中に1本常緑樹があった。森全体が色を無くしたモノクロの世界にその緑色は神々しいまでの生命力に満ちているようだ。松の種類かと思われるその木の下には幾つもの指輪が落ちている。

白い雪の上に銅色の指輪。路上販売の店のように微妙に色とサイズの違った指輪が並んでいる。少し場所を変えると、そこにも別の店とでもいうように、指輪が並んでいる。木の上を見ると松ぼっくりのようなものが見えた。幾つもの輪を重ね合わせた形で、中央の種子を守る形で繋がっているのだろう。その松ぼっくりが地面に落ちる頃になると、全体がバラバラになる。その結果、熟した実と大きさが少しずつ違う輪が地面に転がることになる。大きさが指輪の大きさであるから、指輪がばらまかれているように見える。

その木に向かう二人の姿。雪に付いた足跡は平行に並び、時に重なりあうようにもつれている。二人の吐き出す白い息。若い女が足を滑らせて転んだ。若い男が笑いながら手を差し出す。女はその手を強く引いた。男が前のめりになって雪にキスをした。女の笑い声が森に響きわたる。

二人は手を繋ぎあって木に近づいていく。
「あ、あの木が指輪の木だね」
「うん、そのようだ」
「実が見えるよ」
「え、見えないよ、あ、あった」
「まだ早かったかな」
「もうかなり銅色だから、落ちてるよ」

女が小走りになって木の下に近づく。
「おい、また転ぶぞ」
「大丈夫!」
女は歩みを止め、「わぁーっ指輪がいっぱいだあ」と感嘆の声をあげた。
男が傍により頷く。そして女の輝いた横顔を嬉しそうに見る。しかし、その表情は少し歯がゆさと悔しさが混じっている。

「ふふ、お姫様になった気分だわ。こんなにいっぱいの指輪の中から選べるなんて」
「はいはいお姫様、ごゆっくりお選びくださいな」
男が自嘲の気分も込めた言い方になっているのを無視し、女は指輪を左の薬指にはめて試している。
「微妙な違いがあるから、一つだけじゃなくてもいいよね」
女は自分の指を見ながら言った。
「どうぞ、お好きなように」
男が少し投げやりな感じで言ったのを女はちらっと見て、少し間をおいて気分を取り直すように場所を変えた。

「ね、ね、普段しなくてもいいからあなたも自分の指輪探してみれば」
男は、女の気持ちを察し、傍によっていく。
「これがいいかな」
「どれどれ」
女が男の薬指にそっとその指輪をはめる。
「わー、すごい一発でぴったりだぁ」
女が喜ぶ姿を見て、ふっきれたように男が笑った。
女は男の指を持ったまま、その指を自分の口に運びキスをした。
「ありがとう、こんな私にプロポーズしてくれて」
男は、少し戸惑ったあとポツリと言う。
「ごめんな、まだ就職も決まらないうちのプロポーズなんて……」

女は首を振り、自分の左手と男の左手を並べて指輪を見る。そのまま手をつなぎ、二人は指輪の木を後にする。太陽の光が次第に強くなって、雪はどんどん溶けていき、取り残された指輪達は土の色の中に紛れてしまった。




作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川