架空植物園
いつの間にか景色がぼんやりとしていて、夕方が近いことを知った。今まで歩いて来て気付いたのは、まるで街路灯のように間隔を置いて枝が出ていることと、その花から照明灯のような光が出ていることだった。何と、この巨木は街路灯の樹だ!
もう気分は最高に昂揚していて、真っ暗になるまでここにいて街路灯の樹全体に灯りが灯っている風景を見たい思いに駆られた。
少しずつ街路灯の灯りが強く感じられてきた。空気のせいだろうか灯りが靄がかかったように柔らかさがある。私は歩いて来た道を逆に歩き出した。いずれあの扉のある所に出る。その前に誰かに会うかも知れないと思う気持ちが入り混じった。まあいいさ、誰にも会わなかったらあのドアをノックするのだ。
ここは一番見晴らしのいい場所だ。柔らかな光が花から照射されている。青色や白色オレンジ色の混じった色だ。花の色にあるグラデーションが、光にも現れていて幻想的だ。それが時間を追うごとに変わって来ている。
時間? 時間という言葉を思い出し、さて、時間とは何だったろう、色? ああ、青色、なんという奇麗な色なんだろう。ああ、こんなに奇麗なものを、なぜ私は独りで見ているのだ!
ねえ、誰かいないの! 私はまわりを見回した。どこからか声が聞こえる。扉だ、扉がある。オレンジ色の光が漏れている。なんという懐かしさだ、私は身体の奥深くからこみ上げてくるものを感じながら扉に向かった。
あの声は、妻? あいつだ、何を騒いでいるのだ、そして息子の声だ。私はドアノブを掴み、引いた。
オレンジ色の光が漏れている扉を開けた筈なのに、なぜか薄暗い。
相変わらず妻と息子が叫んでいる。あ、オレのことを呼んでいるのか。馬鹿なやつらだ、ここにいるじゃないか。手を握っているのは妻? ここは、どこだ? うーん 頭が痛い。