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架空植物園

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 私の身体のどこかから何かが出て行く気配も感じた。どこか悲しい感情が湧いたが、もっと食べたいという誘惑の前にそれは蒸発してしまった。今度はじっくり選ぶ余裕があった。割れて中が乾燥しているものと、割れ目の出来ていないものは避けて取って食べた。食べながらこの味で毒がある筈は無いと、根拠がないのに断定して食べ続けた。また身体から何かが抜けていく感覚がある。眼から水がじわりと湧き出て、つうっと頬を流れた。ナ・ミ・ダ……そんな言葉が頭に浮かんだが、それもすうっと蒸発してしまった。

 落ち着いてまわりを見ると、最初に葉が無く奇妙な所と思っていたが、低い位置にある植物は茎があり葉があることが分かった。そして花が咲いている。色々な花の混じった匂いがこの世界に満ちていた。


 歩き出してまた二股に分かれている所に着いた。両方の曲がりくねった木の道の先を見渡すと、片方は先になって上に向かい、もう片方は下に向かっているようだ。
 老婆は先が下方に伸びている道を歩いている。その向こうに男が二人見えた。塔のようなものに寄りかかって雑談しているようだ。口に咥えたパイプからゆらゆらと煙が上っているのが見える。だんだんと近づいてて行く老婆と何やら話しているようだ。やがて老婆がケケケと笑いながら下り坂を行く。少しずつ姿が消えて行って見えなくなったのを機に、私は別の道を進んだ。
 遙か向こうにも人が見えた。乳母車を押している女性だ。いずれの人もゆったりとくつろいでいる。ここには労働などという言葉は無いのだろう。
 労働? 自分が思い浮かべたその文字も、深く思い出そうとするのを妨げるかのような匂いと雰囲気があって、ああどうでもいいや、気分はいいのだからと私は歩き出す。

 所々に街路灯のように、にょきっと枝が上に伸びていて上には、最初に見たものと同じパラソル状の花が咲いている。微妙に色は違っていて、見ている間にも色を変えている。

 先程老婆が歩いて行った道が見えた。二人の男の姿も見える。塔のように見えたものは太めの枝だった。上方に花が無いのは、落雷によって折れ、途中で枯れたもののようだ。見ているとどこからか始祖鳥のような鳥が飛んできてその天辺に留まった。とたんにピュピュピュと鳴き声が聞こえた。そこには鳥の巣があったのだ。雨の日はどうするのだろうと思ったが、ここからは見えないが、中は快適になっているのだろう。雨?
自分がふと思った雨とは何だ。あめ……あ……め…あ…もう何も考えなくてもいいのだと誰かが囁いている気もする。


作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川