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架空植物園

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 浮き浮きした気分で歩いた。螺旋のような曲りを半周した所で見た木は、最初、巨木からではなく湿原から生えているのかも知れないと思った。土筆のオバケのようにも見え、恐竜時代の樹木のように思えた。花か蕾か分からない丸い塊を乗せたその木の根元をよく見るとどうやらこの巨木に寄生しているようだ。細い根でしがみついている。土筆なら節のように見える辺りですぽっと抜けるのだが、と私はその木か茎かわからないものに触った。かすかに振動しているそれは思いの外固い感触がある。茎ではなく木、或いは竹の一種かもしれない。葉が無いなあ、急に私は気付いた。最初に見たパラソルのような花も葉が無かった気がする。そして土筆のオバケのような寄生植物も葉が無い。

 ここはどこなんだ、あまりにも非日常の世界ではないか。そう思いながらも、この好奇心を刺激する世界をすっかり気に入ってしまい、深く考えるのを止めてさらに歩きだした。巨木もいくらか細くなっているのだろうか、木の道の両側が湾曲して下に向かっている。私は端に寄って見た。滑り落ちる心配があるのであまりギリギリまでは行かなかったが、全く心配は無いことが分かった。まるでこの巨木の中心に磁石があるか、あるいは一つの惑星かのように丸い幹のどこを歩いても幹に直角に立っている。
 これは面白いと私は笑い声をあげた。私は横になって歩いてみようと思ったが、風景が変わるだけで横になって歩いている実感は無い。巨木の裏側に立っているとかすかに頭に血が上るような感覚があったので、普通に上を歩いた。

 依然として軽い上り坂を歩き、途中で二つに分かれている所に着いた。またドアがある。私はもう驚かない。そして、その戸を叩くのはあとにしようと思った。橋のように横たわって生きているこの巨木の先が見たかった。一方が上り坂、もう一方が下り坂だ。その下った方の先から人が歩いてくる。私は興味を持ってその人が近づいてくるのを見ていた。片手に派手な柄のパラソルを持ち、もう片方の手にはどこかで摘んだのだろう小さな花を持っている。少し腰が前屈みに曲がった老婆だった。その向こうにアヤメのような花が数本咲いているのが見えた。あ、ちゃんと葉っぱがある。まるで当たり前のことに自分が喜んでいるのが奇妙に思えた。

 老婆が近づいてきて、私のことをチラッと見て自分を納得させるように二度頷いてから、また何事もなかったように鼻歌を歌いながら坂を登って行った。派手なパラソルと、赤青黄茶と混じった長めのスカート、曲がった腰のせいか、その後ろ姿はまるで七面鳥のように見えた。どこかで見たような顔だなあと私は思い出そうとするのだが、そんなことはどうでもいいことだという気分になってしまい、しばらくその姿を見送っていたが、私も同じ道を脇に生えている蔓草などを見ながら歩く。

 アケビのような実がなっているのも見えた。そう言えばと長い時間何も食べていない。果たしてこの実は食べられるのだろうか。近づいて実を取って匂いを嗅ぐ、バナナと熟柿を合わせたような匂いがした。少し割れているその実は簡単に割れて、ずんぐりバナナのような実を取り出して少し囓ってみた。ねっとりとして甘い。アケビのような種は無いので食べやすい。もう口の奥の方から手が出て引きずりこむような感覚があって、もう飲み込んでいた。もう毒でもいいやと思えるほどそれは美味しくて、あっという間に一個食べ終えた。


作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川