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架空植物園

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ああ、オレにも彼女がいたのだ。こうやって抱き合うまでの彼女が。もう灰色の毎日ではない。彼女を抱いているオレの背中にある彼女の手に少し力が入った。言葉では行き交うことの無い感情の交流を感じた。これが幸せ、これが愛というものかもしれない。そう思いながら、オレの胸に顔をうずめている彼女の頭を見ていた。あれっ! 何故だ! 何故顔が思い浮かばない。オレは必死に顔を思い出そうとしたが、まるで見当もつかない。この心地よさなら、このままでいいような気もしたが、次第に彼女の顔を見たい気が大きくなってきた。
「顔が見たい」
「いや!」
「どうして」
「恥ずかしいわ」
オレは彼女の顎に手を当て、やさしく上を向かせた。

       *        *

わっ! こんにゃく芋?
驚いた所で目が覚めた。ゆっくりと自分の置かれた状況を確認する。
抱きついた幹、背中に置かれた蔓のような枝。オレは蔓で動けなくなった自分を想像してぞっとしたが、腕のようなその枝は難なく外れた。まるで意思があるようにその枝はゆっくりと定位置であろう場所に納まった。

それにしてもベタな夢をみたものだ。オレは苦笑しながらゆっくりと抱擁を解き、その植物に《抱擁の木》と名付けた。自分でも違いが分かるほど、身体から力が抜けているのを感じた。もしかしたら、日々の生活もこんな風に力を抜けば好転するのではないかと、ふと思った。気になっている女性もいる。取りあえず声を掛けてみよう、不思議なほど前向きの自分を誇らしくさえ思えた。

時計を見るともう下山しなくてはいけない時間になっていた。オレは《抱擁の木》に手を振って歩き出した。《抱擁の木》も手を振った気がした。また来る? オレは自問自答する。《抱擁の木》よりも人間の、自分に相応しい彼女を抱擁するのが一番だろうと、歩きながらそう思った。




作品名:架空植物園 作家名:伊達梁川