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おもかぴえろ
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novelistID. 46843
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merry

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 この家に入れる女は母が最後だと思っていたが実に世の中はわからないことばかりだ。
 給料袋、と印刷された封筒に紙幣を入れながら、ボーナスも出さないとなあ、なんて思う。
 彼女は思った以上の働きをしてくれている。
「もみたん、お嫁ちゃん候補が現われたね」
 水屋の上に鎮座している猫の置物が嬉しそうに声をかけてきた。
「違いますよー」
「そんな事言っちゃって。あんな子、水葉以来じゃない」
 水葉は母の名前だ。
「彼女には相手がいますよ」
 正確には、過去形なのかもしれないが。
「もみたん、女の趣味最悪だもん。あの子以外の子は受け入れないよ」
 人の嗜好は放っておいてほしい。
「安心してください。我が家はアタシで終わりですよ」
「えー。ねえ、みんな聞いた!?」
 信じられない! そんな空気をまとって猫の置物は声を張り上げた。
「聞いた聞いた。無駄な足掻きを」
「ぬっしゃ、まだそんなことを言うとるのけ。いい加減諦めればいいに」
「言護の血を絶やすなんて正気かえ?」
「このおバカ!」
 そこかしこで声が上がる。
 俄かに喧しい。
 家が綺麗になった弊害は思わぬところにあったようだ。
「時代が必要としてませんよ。時代に術師が淘汰されるのはいつの世でもあることです」
 不思議はない話。
 平成のこの時代まで術師がいる事の方が驚きだろう。
「そうとも言えんのじゃろう?」
「そうそう。だって見合いの話とかあったじゃない」
「まだまだ活躍を求められるよ」
「だってこの国は言霊の国だからね」
 声が揃った。
「煩いですねえ。また埃塗れになりたいんですか?」
「……」
 埃塗れは閉口ものだったようだ。
「いいですか、我が家の事情は彼女にはナイショですよ。余計な口を叩いたら彼女を解雇します」
「ええええええ。も、もみたん、変な子扱いされるかもしれないんだよ?」
 恐る恐ると言った様に猫の置物は口を開いた。
「いいんですよ、ちょっと変な人扱いで。いいですか、他の方々にも伝令を忘れないでくださいよ」
 彼女は感度が高いですからねえ。アナタ達のお喋りを耳にしてたって不思議はないですねえ。
 ぶーぶー言う猫の置物を尻目に中身が入った給料袋を作務衣のポケットにしまって台所を後にした。
 どうやら彼女の解雇は避けたいらしい住人たちは大人しく言い分を聞いてくれそうだ。


作品名:merry 作家名:おもかぴえろ