merry
「ソウネ。若い娘さんを住み込ませるのもなんだ、家近い?」
「歩いて来れる距離です」
「じゃあ適当にきて適当にお願い」
「は?」
「お給金はそーね、これで足りる?」
片手の親指と小指を折って見せた。
「……恐れながら、それは過分ではないかと」
「あらそうなの?」
じゃあこれくらい? 今度はチョキにしてみせる。
「お前それは何の単位だ? 千なのか?」
呆れた声音が庭の戸口から聞こえた。
一体いつからいてどこから話を聞いていたのだ、この坊主は。
知った顔を見て安心した様に齋藤嬢は表情を緩めた。
「嬢ちゃんすまん、遅れた」
齋藤嬢に破顔して見せた櫻井はそれから具体的な話を彼女にもわかる様に進めた。
「――じゃ、明日からこの怠け者をよろしく」
「いえ、こちらこそ宜しくお願い致します」
頭を下げかけて齋藤嬢はこちらを見た。
察するところ、名前を知りたいのだろう。
雇い主がこんないい加減なのにこの娘はなんでうちの家事をやろうとするのかしらん。
変な使命感でもあるのかしら。
そんな事を思いながらやっぱり適当に名乗った。
「アタシ? 今は秋だし、秋でいいんじゃない?」
「ではアキさん、明日からよろしくお願い致します。お坊様、失礼致します」
深々と一礼をして彼女は帰路に付いた。
残った櫻井に
「……面白い娘さんを見つけてきたもんだね」
正直な感想を述べると、
「や、あの子な、目が良すぎて人の集まる場所はしんどいんだそうだ」
と簡潔に応じた。
「へえ」
「俺にはわからん苦労だが、まあ、ここならいいんじゃないか?」
少々の不思議事にはその内慣れるさ。それに。
櫻井は続ける。
「人間、休憩時間は必要だろ?」
……なるほど、事情のない人間はいない、と言うことらしい。
「お坊、人の世は面倒なものだねえ?」
「楽しむのが勝ちだと俺も思う」
何を思うのか、笑い皺を寄せて櫻井は苦く笑った。