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心の病に挑みます。

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11年間、ただひたすら“師匠の激励・期待”に応えんとするため、一心不乱に生活闘争に励み抜いて、ようやくたどりついた道であった。11年間の来し方を思い起こしながら、東京での車中、花塚と打ち合わせをしていた。雄志は、障害をオープンにして働くその原動力は希望の哲学の信仰の力による希望からなんです。と勇気を出して話をしていた。花塚は、「信仰を持った人は強いよね。確かにそう思いますよ。」と静かにうなずいていた。そして、雄志は、一信仰者として、社会変革の旗手としての使命を感じることの歓びを伝えつつ、かけあい形式(Q&A方式)での講演の最終打ち合わせを簡単に行った。
雄志は「どう何を話せばきてくれた人に、話が入っていきやすいか」、当事者講師として、大事なメッセージを伝えるべく要点をさらに絞っていった。
開始時間が迫ってきた。ざっと100名ほどの参加者である。
山中次長による開会の第一声に続き、JSCの田沢理事長(仮名:精神科医)が挨拶、池中先生による基調講演に入った。 精神障害当事者への温かな目線で、穏やかながら説得力のある話しに雄志はいつしか緊張もやわらいだ。
次は雄志と花塚の出番である。昼食を少し食べすぎたためか、お腹をさすりながら雄志は花塚と登壇した。
席について聞いてる間はあれこれ話をしようと思いをめぐらせていたものの、 いざ、登壇し、Q&A形式で掛け合いすると、頭が真っ白になってしまった。
原稿は必ずつくるものの、臨場感を持たせるためにあえて原稿を持たずに話をするようになれたのは、この年の夏頃からだ。
一旦白紙になるものの、それは、限られた時間のなかで今までの流れや、聴衆の反応をみて、自然と話す内容を絞り込まなくてはならないから…ということなどわざわざ考えているわけではない。
理屈を超えた、等身大のありのままの素の状態にリセットされた感じになるというのが、白紙の状態なのだ。
さて、白紙の状態になった雄志は、花塚から質問を投げられたとき、その時の“感じ”によって答える内容を毎回瞬時に思いめぐらせねばならない。
花塚の質問は、会場の空気を敏感に感じとり、参加者が本当に聞きたいことを絞り込んで聞いてくる。
質問の“意図”がわからなければトンチンカンな答えをしてしまいかねない。
雄志は雄志なりのアンテナを張り巡らせながら、言葉を選んで、そこに雄志の“感情”をのせ、答えを投げ返していくのだが 初めは慣れないことから突っ走ってしまうことも多い。 ブレーキ役は花塚しかいない。
この日は、花塚は何度か“待った”のサインを出した。 雄志はそこに“何か”を感じ、あわてて舵をきる。そうこうしてる間に徐々に方向性が煮詰まっていき、決着点がやがてみえてくるのだが、
花塚は巧みに雄志から、参加者へのメッセージを引き出し、雄志も懸命に答えようと身ぶり手振りをまじえて想いをつむぎだす。 いつしか雄志は円をえがくようにお腹を無意識にさすり続けていた。
「仕事が続かない原因が自分では全くわからないんです」
「ストレスがかかるとすぐに今の環境から出ようとする、そこを臨床心理士の支援員から指摘され、改善の努力をしてきました」
企業実習では、「スキルを磨いたり能力を伸ばすのではなく、朝ちゃんと出勤できるかどうか、そこだけをみさせてもらいます」
雄志は、いまだに朝が苦手である。 朝に勝てない人が、どうして信用されるだろうか。信用されなければ、生きづらくなる。そして、人生にも敗けてしまいかねない。誰かのせいではない。それは自分自身の心の油断であり、慢心もあるのかもしれない。
雄志は、朝勝ちの対処法として、夜11時には布団に入ることを目標に薬を飲んでいる。夜中までダラダラ起きず、睡眠時間の厳守、服薬の時間厳守を勝ち取ることが、先手を打つポイントだ。
本当にやらねばならぬことならば、朝必死で起きてでもできるはずだ。 限られた時間のなかで、いかに価値的に、自分らしく楽しく生きれるか。 その積み重ねが価値創造の人生なのだ。 昨日より今日、今日より明日へと、使命ある一日一日を大切に、精一杯生きていきたい。 雄志は、そんな想いを込めて、花塚とやりとりしていた。
真剣な話の合間に、花塚が絶妙に笑いの種を撒き散らすと、会場から笑いの声が起こる。雄志は内心あわてふためきながらも、ボケて返したり、さらに身ぶり手振りで笑いのツポをついたり。大阪人として、その個性を思う存分に発揮しながら瞬く間に30分がすぎていった。
「吉本よりもおもしろかった!」「もっと話を聴きたかった」と参加者から好意的な感想をたくさん頂きながら、花塚と雄志のかけあいは終わった。
「よかったです、ありがとうございます」と田沢理事長が言ってくださり、雄志は感激した。 精神障害者の治療には就労が効果的との臨床から、NPOを立ち上げ実践を重ねてこられた理事長だ。この方がおられたからこそ、雄志も支援を受けながら就職できたのだ。
JSC方式を“語り”で広めることで、ご恩返しができる。そのためには、何でもやらせて頂こうと雄志は固く決心している。
埼玉から参加されていた当事者の方の発表も、きちんと原稿をかかれて要点をついていてとてもわかりやすく伝わってきた。
会場からの質疑では、「引きこもりの方へ施設へくるよう電話することが負担にならないか」との質問に 雄志は当事者の体験から、「施設へこなくなったのは、何か気づいてほしいとのサインであると思います。電話することで『心配してくれているな』と感じますので、負担にはならないと思います。むしろ嬉しいと思いますよ」
と話すと、埼玉チームも全く同意見であった。
閉会の挨拶のあと、大阪から出張してきたJSCの一員は、お互い褒め称えあいながら、池袋の土佐亭で魚料理を心ゆくまで堪能した。

年が明けて、寒さが肌に染みる2月4日の早朝、雄志は、まだ夜の明けぬうちから、コートに手を突っ込みつつ、再び自宅を出発した。医療福祉関係者のための“精神障害者の就労準備講座に学ぶ”の当事者講師としての二回目の出張である。今回は、初めて九州に向けて旅立つのであったが、雄志にとっては、中学校の修学旅行以来20年ぶりの九州であったし、舞台となる大分県へは初めてであった。
訪問する大分県中津市の予備知識を仕入れようとインターネットで検索したところ、黒田官兵衛ゆかりの中津城と福沢諭吉旧邸があるとのこと。
さらに唐揚げが有名で、あのケンタッキー・フライド・チキンが中津から撤退するといわれるほど、唐揚げの聖地であることがわかったのである。
雄志にとって、糖質制限の関係からラーメンに変わるマイブームを“唐揚げ”にしていただけに、時の符号を感じずにはいられなかった。
さて、大分県を選んだ理由はまだ行ったことのない土地であったことでもあったが、九州において精神障害者の就労支援をこれから頑張っていこうと活発に学んでいることを知り、大分の当事者や関係者の方々に希望の光やヒントを届けられればとの思いもあった。
作品名:心の病に挑みます。 作家名:大和雄志