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心の病に挑みます。

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「私たちにとって、働く上で一番配慮してほしいのは、人間に優しい労働環境です。今現在、労働者・失業者・含めて人間の置かれている環境は非常に苛酷なものがあります。これを早急に改善していく必要があると思います。このままでは、若い人や真面目に働いている人が本当にかわいそうです。
これから労働者を守る仕事をされる方も現在守っておられる方も、労働者、すなわち、いま目の前にいるその一人の人間を徹して守り抜いていってください。一人の労働者を守るということは、その家族を守ることにもなります。家庭を守ることは地域社会を守ることにもつながります。人間を守る、その連帯が広がることを切に願っています。
人間の尊厳を守る、大変重要な立場となる皆さんは、どうか、ご自身も健康第一で、食べすぎ飲みすぎに特に気をつけていただきたいと申し上げ、私の話しを終わりたいと思います。ご清聴、ありがとうございました!」
雄志の話が終わり、やがて質疑応答まで終わると、雄志は運営役員の方にお礼をいい、会場をあとにした。
“冬は必ず春となる”“闇は深ければ深いほど暁は近い。”
苦しい時は誰にでもある。苦悩の海に沈む人もいるに違いない。しかし、朝のこない夜はないように、希望を抱き前へ進めば、必ず人生に春の訪れはやってくる。雄志はこの言葉を教えて下さった恩師に感謝しながら、雄志は使命の舞台を歩んでいくことを深く確信していた。
障害ゆえに働きたくても働けない人はたくさんいる。その人たちに、最大の希望の光を送るべく、雄志は恩師の指針のように、懸命に道なき道を開いていく決心であった。


そして、全国へ!

2011年正月、冷んやりした空気のなかを、新年の温かな陽光が降り注ぐ。
新しい環境で新しい気持ちで、2011年の正月を迎えられたことに雄志は感謝しながら、「この一年をどう過ごすか」真剣に祈り考えていた。
雄志は、精神障害をオープンにして就職してから2年が経っていた。健常者から見れば、短すぎるかもしれない。しかし雄志にとっては、就職して一番長い勤務期間を過ごしている。ただ、続けられるのは、労働環境の配慮があればこそだ。 風邪をひきやすい雄志にとって病院で治療を受けることは、非常に大切なポイントだ。 一般企業では簡単に有給休暇などとれない。風邪の治療すら許してくれない度量の狭い人間も多い。 自己管理は大前提であるが、ストレスに弱く、家事育児などで体調を崩しやすい雄志にとっては、病院にいく時間を許してもらえるだけで、どれほどありがたいか。
こうした配慮があるから、雄志も安心して仕事に励むことができる。ただし、給与は驚くほど安い。安いなりに理由はあるが、それ以上のメリットがありがたかった。
「遅くなってすみません…。」
ぎこちなく頭をかきながら、職場に入ることもあった。
デスクに向かってバリバリ仕事をするのではなく、ゆるやかな雰囲気で各自のペースを尊重しながら、それぞれ責任を分担しながら、コツコツと点字を打ち込んだり、入念に校正などをしている人がいる。雄志は、主に点訳作業のため、広報誌を読み上げたり、社会保険関係の事務を処理するなどしていた。
一般企業に比べられないほど、軽作業だ。はじめこそ、手応えがないと、力を持て余していたが、安心感と居心地のよさに次第に魅かれていった。
膨大な仕事量と厳しい人間関係で、叩かれて沈み、やむなく転退職を繰り返した経験からは、このような職場はまるで極楽浄土にいるかのようだった。
安定した身分と、わずかながらも一定の収入があり、仕事に支障がでなければ、自分のしたい当事者発表も可能である。雄志は、自分にしかできない、これまでの苦闘の体験を書き残しておこうと携帯やパソコンを開いた。
就労支援を受ける訓練生の気持ちを体験から書いたものもできた。 訓練生は、「ほんとに就職できるのか」と不安にさらされながら、真剣に悩んでいる。言葉に出すことが不得意な人も多いため、悩んでるように見えず、ただ、黙々とおとなしく訓練を受けているのだが、
内心は破裂せんばかりの不安を抱えている。割れそうな氷の海の上をそろりと足をふみ出すかのような心境だ。
また、「なぜ、こんな作業をしないといけないのか」と疑問がはれず、退所する人もいる。職員も利用者も共に粘り強く歩み寄ることができれば、希望の光は必ず見えてくる。どんなに絶望の闇のなかでも、出口のないトンネルはないように。太陽が昇らない日がないように。そして、冬の季節もやがて春になるように。
途中で荒れ狂う日々があっても、あきらめず地道な努力を続けられた人が、最後は必ず春をつかむことができる。 ただ、それまでも大変であるし、就職してからが、ほんとのスタートだ。 いつ、また人間関係で崩れるかもしれない不安を抱えながら、 時折訪ねてくるジョブコーチと面談し、不安を吐き出しながら今日もまた挑戦は続いていく。

蝉の盛んになく7月になると、雄志は仕事のあと、JSC北摂事業所に向かった。その時に、スタッフから、「9月に大阪府主催のイベントがあり、元阪神タイガースの白星選手(仮名)がこられるから、JSCの卒業生代表としてイベントに出てほしい。」との依頼があった。
三障害ある人と支援員がそろってイベントにて“さわやかトーク”を展開するらしい。実名をさらすことは大変に勇気のいることだが、自分の障害を知ってもらうことで、理解がすすめば本望との信条から雄志は、参加を受諾した。
雄志は、さわやかトークが堺市内で開催されることもあり、近くにすむ父母姉にもみてもらおうと参加を呼び掛け、きてもらうこととなった。
『父親をはじめ家族に、病を抱えながらも頑張っている姿をみてもらいたい!』
との気持ちからであった。少々恥ずかしさはあるものの自分自身に希望という名の目標を胸に抱ければ、苦しいときにも頑張れる。どうしようもない苦悩に沈み、途方にくれるときも大いにあるだろう。
人は、最悪の状況になったとき、その真価がわかる。雄志と支援員は、9月18日の当日までに、打ち合わせを数回行い、中身を確認していった。
持ち時間はわずかに2〜3分しかない。しかし、限られた時間にいかにメッセージ性を入れ込むか頭を砕くような思いで一つずつ整理して絞り込んでいった。
会場に白星選手が到着した。律儀で一生懸命で誠実そうな人柄である。出演者と記念撮影後、あつかましくも、雄志は白星選手とのツーショット写真を撮ってもらったのだった。
そして、本番が始まった。舞台袖に案内され、壇上に並べられた椅子に着席する。心臓ははちきれんばかりに脈打っていた。司会は、数百名の聴衆に雄志を紹介した。
「障害がありながらも今頑張っていることはなんですか?」との司会者の問いに
「子育てに頑張っています。それと、仕事の合間に物書きを頑張ってます。」
と答えた。また、お互いがお互いを攻め合うのではなく、許せることがやさしい地域をつくることになりますとも語った。それには白星選手も深く同意され、「今、阪神が弱いのは、そのコミュニケーションがないからなんです」と答えてくださった。さらに「今後の夢は?」との問いには
作品名:心の病に挑みます。 作家名:大和雄志