小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

心の病に挑みます。

INDEX|25ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

「ひとことでいいますと、とても勉強になりました。幅が広がったと思います。人を支援していくなかで、悩みながらも、自分が成長していることを実感できましたし、制度の面でいえば、ユーザーとして、制度の仕組みを肌で体験することができます。また、人間関係で不器用な私が、精神の勉強をすることで対人関係の距離感を学ぶことができました。
PSWの勉強・仕事をしながら、精神障害者としてどういう制度を利用すればいいのかを知ることができました。
初めに知った制度が32条、いまの自立支援医療を使って毎月の医療費を節約できましたし、精神障害者手帳をとるメリット、例えば、駐車料金が場所によって無料になるとか、をメンバーさんが利用していたり、就職するときに、支援を受けられることを知ったりして、手帳を取得する決心をしました。手帳を取得しているメンバーさんが障害をオープンにして就職している姿をみて、“自分も障害をオープンにして就職する道を考えよう”と思うようになっていました。
障害者職業センターで、検査を受けた結果、場面の流れを読み取る能力が平均より低いということと、関係機関との連携・調整の“調整”の部分で、フォローされることが多かったことも、きっかけの一つです。
また、国民健康保険料の全額・半額免除制度を失業しているときに利用したりもしました。
ハローワークで、手続きすると、普通は、90日しか失業給付がつかないところ、300日もついて、その期間をつかってJSCを利用することができたりしました。
制度をつかってみて思うことは、オープンにして就職に挑戦するには、制度が結構充実しているなという実感なんです。
はじめは、JSCに通って、失業してお金がないのに、なぜサービス料をとられるのかと思いましたが、非課税世帯でしたので、ずいぶん、軽減されていました。
無料よりも有料のほうがサービスが充実しています、というハローワークの方からの助言もおおきかったです。
病院に通うのに、自立支援医療を使いながら、クリニックのスタッフや臨時職員として書類を受理する側にまわったり、役所の臨時職員として受給者証をつくって発送するかと思えば、JSCを利用してサービスを受ける側になったり。
“なんておもしろい体験をしているんだろう”と苦笑しましたね。
支援の現場、制度の現場の両面を知る。精神保健福祉そのものを体験する。なかなか体験できるものではないことを体験させてもらって、貴重な経験をさせてもらいました。」
最後にPSWの卵に伝えたいこととして、
「PSWとして3年半という短い期間からの経験ですが、PSWを目指される方は、メンバーさんの退院を願い、社会参加を願い、就労支援に一生懸命取り組み、時々、裏切られても、また向き合っていくわけですが、決して“この人には無理だろう”と決めつけて、支援をとめることのないようにお願いしたいと思います。
若いスタッフは経験がないと躊躇してしまうこともあるかと思いますが、私達は“働きたい”んです。
我々の“働きたい”という思いをどうか形にしていただきたい。私も何かで貢献できないか模索しているところです。また、今、メンバーさんに裏切られて振り回されつつあっても“いつか必ずよくなる”と強く信じて支援されていくことをお願い致します。
学生の間に、どんどんいろんな人にあって、できる限り自分の世界を広げてほしいですし、いい先生、いい先輩に出会ってほしい。そう願っています。
これからの精神を担う若い人ですから、私の体験したことを聞いて、何かを得ていただいて、今後の糧にしていただければ本望です。みなさんのご活躍を祈りつつ、以上で終わります。本日は有難うございました!」

花塚と雄志は講演が終わると、コーディネーターである准教授や講師の先生とともに喫茶店に入り談笑するのであった。
雄志は、精神保健福祉士の仕事を辞めてから、今にいたるまでも、いずれPSWとして少しでも精神の分野で関わっていきたい、と願っていた。
それも、どこかの組織に所属するだけではなく、個人として、また、仲間を集めて、新たな職場をつくりだそうとしているのだった。
当事者PSWとして、病になった人の気持ちは専門家よりもわかると感じているし、寄り添っていける。同情しすぎて振り回される恐れがないともいえないが、そこはPSWの資格と経験が生きてくる。悩める人のため、相談業務を中心に、活動できるネットワークを広げていきたい。雄志の夢がまた一つ膨らんだ。
そんなとき、JSCの花塚統括所長と雄志を支援してくれたスタッフの池山・竹田、両氏と飲みに行く機会があった。雄志は、花塚にある答えを求め、率直に疑問をぶつけた。
「僕は、当事者として講師をしていくだけでしょうか?専門家としても生きていきたいです。」
花塚所長が雄志の眼をみながら、真面目にこう応えた。
「大和さんは、PSWの資格がある。ずっと当事者として生きていけとは僕らは思っていないよ。そんなことは私も望んでいない。」
花塚はおもむろにタバコを取り出し一服すると、
「大和さんをうち(就労支援施設・JSC)のスタッフとして欲しいぐらいや。5年10年先の話じゃないよ。近々考えているよ、真剣にね。大和さんはどう思う?」
雄志は、思いもかけない花塚の言葉にとっさに反応して言った。
「はい、僕は、いずれは精神保健福祉の道に戻りたいと思っています。」
雄志が言うと、花塚はにっこりとうなずいて
「精神障害者の就労を全国に広めるために、一緒にがんばろう!」
花塚と雄志は再び乾杯し、うまそうにお酒を飲みほすのだった。雄志は、花塚の言葉を心で何度も反芻しながら帰途についた。
「いよいよだ!僕の使命はあの時(クリニックの退職)で終わってなんかいないんだ!これからが本番なんだ!!」
働きたい、これは、ほぼ万人に共通する願いであろう。
もちろん働きたくないと思う人もいるだろう。
しかし、はたらくとは「はた(周り)」を「楽」にすることだともいう。
これほど尊いことはない。
働きたい、この純粋な願いが普通に叶えられる社会であってほしい。
民衆の幸せを常に願いながら活動する政治家がたくさん出てほしい。
雄志は、この日も、働けることに感謝していた。
自分の居場所がある、自分が理解される。
このことがどれほど雄志を支えているか。

秋になり、黄色い銀杏の葉が風にあたって優しく揺れている。澄み切った青空は、園児たちを包み込むように、はるかかなたまで続いている。長女の運動会に参加している雄志は、時計を気にしながらもデジタルカメラを片手に写真を撮っていた。やがて正午になると、雄志は、電車に乗り込み大阪市内へと向かった。
この日は、労働関係の団体が主催する『職場とメンタルヘルス』の研修会の中で、当事者の講師として話をする機会を頂いたのである。
職場の労働者を守る立場にある人たちが、この研修に参加をすると聞いている。雄志は、最後にこう話をした。
作品名:心の病に挑みます。 作家名:大和雄志