小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

心の病に挑みます。

INDEX|23ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

やがて、本日の登壇者がそろった。
「そろわれましたね、どうぞこちらへ」
案内のスタッフが発表の舞台へと導く。雄志は、大きなその会場に入ると指定された前方の席へすわった。聴衆は120人ぐらいいる。緊張感がただよった。
「それでは、働く当事者の方より発表していただきます!」
雄志の胸の鼓動が高鳴った。雄志にとって全国を舞台にする晴れの瞬間であった。
雄志は、絶望のどん底から歩んだ我が道が、多くの人の希望の道しるべとなることを思うと、興奮で汗まみれになるのだった。用意した原稿を一気に読みあげながら、今日の発表を通して、縁するすべての人たちにいいたいことが一つだけあった。それは、“どんな暗闇のなかにいようとも、希望を抱いて前進すれば、必ず光は見えてくる。”ことであった。
これは、「闇が深ければ深いほど、暁は近い」「冬は必ず春となる」という仏典を雄志自身が信じて、実行してきたから言える言葉でもあった。
雄志は、統合失調症を発症してから、社会経験を積み始めた。多くの仲間の支えがあり、仕事を続けられ、結婚もできた。その後、妻と子を抱えながらも、やむなく転職を繰り返し、雄志は、絶望的な状況に陥った。
かくも社会は厳しいのかと泣くような思いで履歴書をひたすら何通も書いていたのだった。自分は精神障害者である。不況の影響もあり、求人は激減していた。
しかし、ゆえに、自身が、皆の希望の光となっていかねばならない。必ずや 今の苦境を乗り越えてみせる、と歯を食いしばってJSCの就労移行支援施設に通い続けたのだった。
人は善根をなせば栄える。との言葉を信じ、縁する人の無限の可能性を信じて、励ます活動にも取り組んだ。そして、不思議にも正社員として今現在の職場に就職することができたのである。
それから約11ヵ月後、こうして晴れの舞台で、自身の体験を語るまでになれたのだ。勇気をだして、語りきったあとは、爽快であった。
全員の発表が終わり、そろって退席すると、雄志はスタッフに呼び止められ待合室に通された。
ラジオ出演については前もって依頼されていたので、心がけはしてあった。舞台での発表が終わったあとも、興奮は冷めやらないまま、初のラジオ収録に雄志は緊張と興奮でいたたまれない気分におそわれながら、ラジオパーソナリティの登場を手に汗をかきながらしばらく待っていた。
しばらくして、ガチャと扉が開くと同時に「おまたせ」と明るい声で一人の婦人が手を振りながら部屋に入ってきた。アロハ模様のシャツをきて、パーソナリティの広山和美氏が勢いよく入ってきた。
「今日は、あなたがお話してくれるのね。よろしくね。」
というのと同時に、広山氏は雄志ともう一人の出演者、森岡に手を伸ばし、握手を求めた。
「収録の前に、あなたがたのことを聞かせてもらえるかしら」
雄志は病気になった経緯や、現在の状況を話した。そして、いよいよ収録本番となった。緊迫感が部屋中を満たす。
雄志は、緊張でやや固くなりながらも、収録のなかで、「障害者福祉センターのなかで、働かせてもらっているので、障害ある方の力となって頑張りたい」と抱負を語った。
広山は「精神障害をオープンにして、メディアに出て有名になる人もいるけど、それは自分の力じゃなくて精神障害のおかげなんだよ。そこを勘違いして潰れていく人が多いのよ」
雄志はとても参考になる話だと心にとめた。
緊張のラジオ収録を終えると記念にクオカードとボールペンをもらい、参加者でカメラに収まった。
やがて懇親会の時間がきた。少し迷って会場に到着すると、雄志は、会場で参加していた当事者メンバーの一人から声をかけられ、からあげをつまみ、ビールを飲みながら、談笑していた。
幾人かの人から名刺をもらい、談笑したあとで、ワインを片手ににこやかに雄志に近づいてくる人がいた。JSCの統括所長・花塚である。
「発表の初めから終わりまで話を聞かせてもらったよ。白と赤とどっちがいい?」
一瞬なんのことかと思ったが、すぐにワインのことだと気づくと雄志はとっさに「白でお願いします。」といい、刺身を食べ始めた。
雄志の発表の振り返りから、今後のJSC北摂の就職者の集いの今後について、思っている展望など話をしていた。充実した楽しいひと時が過ぎようとしていた。
雄志は、懇親会場をぶらりと出て、自分の部屋へと歩いた。少し疲れが出たようだ。
シャワーを浴び、ベッドに横たわると、すぐに寝てしまった。
翌日、会場のレストランで朝食を食べると、帰り支度をせざるをえなかった。
雄志はいただいた講演料で、鯛めしを買い新幹線で執筆作業に精をだすのであった。


栄養療法

就職を果たしたものの、雄志は何か、現状の他に何かやらないといけない感じにいつも追われていた。
“何か”勉強をしていないと気がすまないのだ。
雄志は、以前、池山より指摘されていたことを思い出した。
「大和さんの自信は、過去の成功体験からきていますが、それは博打のようなものです。」
「そういわれれば、一点突破からの逆転大成功ばかりを狙ってたような気がします。例えば、学校でも、平常点より、実力テストでの高得点に重きをおいて、内心点を軽んじるところがありました。」
「そうした積み重ねが、また、裏をかいて成功すればとりかえせるという発想につながったのだと思います。
それが仕事では通用しなかった原因の一つでしょうね。JSCの作業でもこんなくだらない作業をしてなんになるのか、と思われるかもしれませんが、それが作業態度に現れてきますからね。スタッフはそこをみてるんですよ。」
雄志は、目からうろこがおちる思いだった。いままで、負けてばかりいたので、いつか、勝ち組みになってみせると、リキんでいた。つまり、一点突破からの逆転ばかりを狙う形となっていたのである。
人は、転退職を繰り返すと、次こそは次こそはと逆転勝ちを目指すが、大体弱い部分をつつかれて、また辞めてしまう。それが待遇であったり、仕事内容であったり、人間関係であったり・・・。
学んだ事を活かさなければなんのための学問か、持っている資格を活用しなければなんのための資格なのか。資格を活かす努力をせずに、新しいものばかり次々手をだしても、何一つ身に付かない。雄志にも、当てはまるところがあった。そこを変えていくためのJSC北摂であり、SST(ソーシャルスキルトレーニング)であった。雄志は、就職してからも何の資格を取ろうかといつもそればかり考えていた。就職後のフォローをしてくれる竹田支援員にも、あれこれと“訴え”ていたらしい。毎月のように、雄志は目指す資格が変わっていたようだ。何か資格がないと生活も保障されないかのような強迫観念があったのかもしれない。雄志自身が気づくまで、しばらくは資格探しの旅を続けざるを得なかった。
ある日のこと
「統合失調症には、ビタミンがいいのよ」
そういうと雄志の妻、嘉穂はネットから購入したサプリメントをテーブルの上においた。
「あなたのポッコリお腹を治すには、これ」
と、今度は、大豆プロテインの粉が入った大きめの袋を取り出した。
「ごはん、パン、麺類、粉もんはみな炭水化物、あなたは食べたらだめなのよ。肉・魚・卵・野菜を中心に食べるのよ」
作品名:心の病に挑みます。 作家名:大和雄志