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心の病に挑みます。

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「はじめまして、大和さん。さっそくですが、朝のミーティングに参加して頂けますか?」
所長は笑顔で雄志に話しかけた。
「今日と明日、実習生として来させて頂きます、大和です。みなさんよろしくお願いします。」
と作業所で働く利用者の方に挨拶したあと、PSWの資格を持つ女性スタッフの指導のもとで、雄志は動き始めた。一人の利用者を見守りながら、掃除の指導をするという仕事内容だ。
三年前までは雄志も精神保健福祉士として、利用者と接していたのである。その感覚を再び思いだして接しようとした。ところが、それが思うようにいかなかった。
掃除を覚えることと、しっかりと掃除する利用者を指導していくことのバランスがとても難しかった。
また、四方八方に注意してミスしないように気をはっていた。指導の仕方がまずいのか、手順を覚えていないからなのか、時々女性スタッフに指摘された。
二日間の実習の結果、下された評価は、
「注意して指摘されたときの動揺が大きい。また、気がつきすぎて疲れやすく、長く続かないのではないか。」
と、遠まわしに断られたのであった。
“PSWへの復活もできなかった・・・”
雄志はショックであった。もうあの時の力が失われてしまったのだ・・・。
しかし、家族もいる。ここで泣き寝入りはできない。そう腹を決めると
「次々と手を打っていきましょう。もうすぐ失業給付が切れてしまいます!」
と池山に強く意見した。一時期、池山支援員に三時間ぶっ通しで主張をぶつけたことがある。タフな池山もさすがに疲れたに違いない。
「すいません池山さん、でも誰かにぶつけないと気持ちがもたないんです・・」
雄志は、池山に謝った。
不況の影響を受け、求人はどんどん減っていく。雄志と池山は再びハローワークに行き、求人票をながめながら愕然とした。“この給与では家族三人生活できない”と思うような求人票であった。
しかし、それは、正社員を募集しており、社会保険完備、退職金もあるという待遇だった。“これでいこう、ここしかない”から“ここが絶対いい、ここで働きたい”と思えるようになった。
「ではさっそく調整しましょう」
池山支援員は求人票を所内に持ち帰り、電話をかけた。ほどなくして、“見学にきてください。”との返事があった。
寒さの残る2月下旬、雄志と海山はJR中月駅(仮称)で降り、南へと歩いていた。急ぎ足で約20分程歩くと、壮麗な建物がいくつか建っている大通りに出る。
「このあたりは大和さんきたことはありますか?」
「以前、勤めていた会社でこのあたりはきたことがあります、戻ってきたという感じですね。」
雄志はそういうと、懐かしげに福祉の仕事について話始めた。
「福祉センター内にある事業所に行くのは、やはり、何かひきつけるものがあるのかもしれないですね」
池山はコートのポケットに片手を突っ込みながら寒さをこらえて歩いている。雄志は無言でうなずいた。道沿いに歩いているとやがて右手に大きな建物が見えてきた。
“ここか・・・”
納得したように雄志は建物を見つめ、そして中へ入った。
「二階でしたね」
池山が確認して言うと、雄志とともに、階段を昇り、奥の印刷室へと向かった。
「こんにちは、JSC北摂の池山といいます。」
と池山が挨拶すると、奥から小柄な男性が現れた。
「どうも、こんにちは、山下といいます。見学にこられた方ですね」
「こんにちは、はじめまして、大和といいます。よろしくお願いいたします」
「どうぞ、散らかってますけど、案内させてもらいますね」
山下という男性は気さくに犬井に声をかけると、張り切って案内し始めた。
「この職場のスタッフは、みな身体のどの部分かで障害をもってます。私も障害者なんですよ。
でもお互いが障害者であれば、逆にお互い健常者ともいえると思ってやっています」
大和は、山下のその言葉に感動した。
目の不自由な人、身体の一部が不自由な人が我が家のように笑顔で働いていたのだ。点字印刷をしている場面を見せてもらったあとで、池山と山下は種々話しをしているようだった。
「ありがとうございました。」
そういうと、雄志と池山の二人は印刷室をあとにし、JSC北摂に向かった。
「僕はここに勤めたいです」
雄志は強く念願し、池山支援員に伝えた。
「わかりました。面接の日が決まるまでは、所内で作業をしましょう。」
翌日から再び作業をしていた。
やがて面接の日がきた。スーツに身を固め、雄志は同じ道を歩み、福祉センターのなかへ入っていった。会議室へ案内されると、そこには役員が3人と事務局の山下が座っていた。

「大和さん、あなたの障害はなんですか?」
役員の一人が尋ねた。
精神障害であることは確かにそうなのだが、一人ひとり特徴は異なる。ここではその自分の特徴を具体的に伝えねばならない。雄志は役員にこう答えた。
「誰かに相談せず、独断で行動してしまうことがありましたが、就労支援を受け、報告・連絡・相談がしっかりできるよう半年以上訓練してきました」
「また、私には障害からくる欠点があります。それを知っていただいたうえで、それを克服していくための努力をしてきました。たとえば、二ヶ月間企業実習をさせていただき、休むことなく、安定して通勤でき、作業能力も高いとの評価をいただきました」
と自信をもってはっきりと答えることができたのだ。
「薬を飲まれているのですね?」
という質問には、
「学生時代に発病して以来、八年間再発していませんが、念のために睡眠薬をのんでいます」
と薬を服用していることを隠さずに話したのであった。手ごたえはあった。そして、2週間をすぎた頃、採用通知書が届いたのである。雄志は、飛び上がって喜び、JSC北摂の池山支援員に電話をかけた。
「池山さん!福祉センター印刷部に採用されることになりました!ありがとうございました!」
「よかったですね、大和さん!本当におめでとうございます!」
電話をかけた翌日、雄志はJSC北摂に行き、池山支援員や竹田支援員らスタッフにお礼を言った。
「大和さんおめでとうございます!」スタッフ一同喜んでくれた。
「大和さん、これからは職場へときどき訪問させてもらいますね。それが私たちの支援ですから。」
池山は大和と固い握手を交わした。




<章=第三章 〜講演活動編〜>

講演活動

悩んでいる人がいる。待っている人がいる。そして、手を差し伸べてくれる人もいる。たくさんの人に助けてもらった分、今度は自分が恩返しをしたい、大和雄志はそう決意していた。
自分のために手を差し伸べてくれた人の想いを、裏切るようなことがあってはならない、そう思っていた。雄志は、電車の移動の車中、冬だというのに手に汗をかいていた。とにかく頭がボーっとする。意識が宙に浮いたような感じであった。雄志が、急性の統合失調症を発症してから9年がたっていた。しかし、いまだ病気の後遺症に悩まされていたのである。
朝と寝る前の薬がなければ、再発をしてしまう恐れがあった。そわそわ感、頭の違和感、飲み忘れたときのバラバラ感。神経が冴えてくるような感じ。
「しょうがいないなあ・・・病気とつきあいながら、ぼちぼちやるしかないな」
作品名:心の病に挑みます。 作家名:大和雄志