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心の病に挑みます。

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「池山さん、じゃあ僕にはどんな仕事が向いていると思いますか?」
雄志はいつもそのことばかりを気になっていた。仕事を選んでいては生活ができない、ゆえに仕事を選ぶなという人もいる。
しかし、どの仕事ができるのかは継続して働く私たちにとっては大変に重要なことだ。福祉・事務・電気・農業・公務員と雄志は、収入と継続性を考え、不安になるたびに就きたい職業の希望がころころと変わっていった。そんな雄志を池山支援員は忍耐強く話しを聴き、受け止めてくれた。
「体力的な面からいっても事務ですね。」
と池山は確信を持って言った。
「なぜですか?」
「正確さと安定性で事務だと思います。ナコリマ食品の実習で堅実な仕事ぶりを見させてもらってよくわかりました。」
「そうですか・・・。」
雄志は少し残念そうに肩をおとした。というのは、事務の中でも人間関係で行き詰った経緯があるからだった。また繰り返してしまうんじゃないか・・と再び不安がよぎった。
事務職を希望する人は多いが、楽ができそうという理由で選ぶのはやや軽薄な考えであろう。数字に強い、ミスをしない、正確に処理できる、ことに自信がある人はいいかもしれない。
自分がどんな働きができるのかを整理していくうちにみえてくればよいが、自分のことはなかなか自分ではわからない。
雄志は、かつての失敗から、事務職を変え、技術職に就こうと考え、職業訓練校に通おうと真剣に考えていたのだった。
しかし、第三者の池山支援員から客観的にみて、雄志の適職は事務職だというではないか。今まで苦労をともにしてくれた池山さんがそういうのだから、それでいこうと雄志は腹を決め、事務職での就職を目指すことにした。その数日後の 1月8日、池山支援員より「面談室にきて下さい」と呼ばれた。
“今度は何だろう?”
と雄志は思いながら面談室でしばらく待った。
「大和さんの今までの発言のブレや転職行動が、統合失調症からくる障害であることがわかりました。」
池山は自信を持って雄志に説明した。
「大事なことは“一つの環境の中でストレスを対処する”ようにできることです。それをできるようにするため、大和さんがしてはいけないこととして2つあります。1つは“(職場を変えるなどの)環境を変えること”、2つめは“新しいことをする”ことです。」
「確かに今まで、ストレスがたまるといつもそういうふうに考えてしまうんです。」
雄志は顔を曇らせた。
「ストレスのある状況になると、大和さんの考え方が2つ発生します。それが感情やイライラとつながっているのです。環境を変えようとか、何か新しいことをしようとしたりするのが大和さんのパターンなのです。」
確かにあてはまることだと雄志は思い、うなずいた。
「大和さんにしてほしいことは、認知を変えることです。1つは自分がどういう考え方をするのか自分で整理することです。2つめは少しでもストレスを感じないような考え方の訓練が必要です。」
さらに池山は語った。
「不調時の大和さんの考え方の特徴を言います。JSC北摂に行くと“僕にはあの作業は意味がない”と思うことです。そしてイライラする。次の実習・就職先が決まらないと他の何か新しいことをするべきじゃないかと思ってしまうんです。」
「その通りだと思います。」
「なぜ不調になるかわかりますか?」
「自分でもわかりません」
「次の環境が決まらないとき、飽きたとき、仕事(人間関係)での失敗があるとき、その時、大和さんは、他の職場を探すことを選んでしまいます。しかし、そのくせを変えないといけないのです。それが継続して働くことの敵であるのです!」
「大和さんの障害の特徴は、現状やっていること以外の何かしないといけない、攻撃性、衝動性、落ち着かなさ感があることです。100%どれかにあてはまります。そして、これは性格のように思えるかもしれませんが、実は統合失調症の特徴で障害からくるものなのです!」
池山の確信ある言葉に雄志は脱帽する想いがした。
「そうなんですか!職場を変えてしまうことは、てっきり私の性格からくるもので、この性格を変えないといけないとばかり思ってしまっていましたよ。」
「そうです。そこで訓練をしていくんです。私が“大和さん、いま不調ですよ”と声をかけたとき、まず耳を傾けてください。不調のサインは“何か考えがでてくる”のです。そして大和さんはこう思います。
“成功した経緯もあるし、僕の考えは正しい”と。
そんなときは、“ちょっと不調かもしれない”と思ってください。“不調だから、ちょっと落ち着こう”と。
そして『今やっている作業だけ集中して、何も考えないでやろう』と、心がけてください。そうすれば大和さんの障害は必ず改善していきます。」
「なるほど、よくわかりました。」
大和は降参するような思いで深々と頭を下げた。
「“周囲のサポートで障害に気づく”これが第一段階でいまの大和さんの状況です。そして次に “自分で気づく+他人の声かけで気づく”ことです。理想的なのは “自分で気づいて対処する”ことです。  これがセルフコントロールになります。これからは、認知療法をしつつ、不調時に私か、奥さんの声に耳を傾けることです。」
池山は自信を持って語っていた。雄志は心底納得した。
「よくわかりました。」
「大和さん、いらいらしたときのストレス解消法を持っていますか?」
「お茶やコーヒーを飲む・・とか席を立ってトイレに行く・・ぐらいですね。」
「それでは少なすぎます。もう少し他の方法を考えてみましょう。それが今日の宿題です。以上です。」
雄志は、目からうろこが落ちた。やっと自分を苦しめていた原因がわかった。と
そして、面談室を出たあと池山に再度、礼を言い家路についた。
障害を開示して

「では、さっそくハローワークに行きましょう」
と雄志と池山はハローワークに向かった。障害者枠の求人は少なかった。しかも、正社員ではなく、一年限りの契約社員やパートの求人がほとんどであった。
池山支援員も雄志も求人票にくいつきながら、ともに話し合い、いくつか選んでいった。雄志は自宅でもパソコンで求人検索していたが、再び、精神保健福祉の道を歩みたいという希望が強くなり、作業所のスタッフの求人を、ひそかに探し始めたのであった。二件希望するところが見つかった。そのことを池山支援員に話すと、「わかりました」と希望を受け入れてくれた。
「では、さっそく、実習の受け入れ先として交渉してみます。」
池山は受話器をとり、京都のある作業所に電話をかけた。しばらく雄志は作業をしながら待っていたが、
「どうでしたか?」
雄志が気になって聞くと、
「OKです。動きやすい服装できてください。と言われましたよ」
雄志は喜び、さっそく準備にとりかかった。

雨の降る、肌寒い2月であった。
京都の駅で雄志は池山と待ち合わせ、バスに乗り合わせ、郊外の町を眺めていた。
「環境はいい感じですね。」
そう雄志はつぶやいた。約20分バスにのり作業所についた。あるビルの5階にその作業所はあった。ドアの前で待っていると、作業所の所長がきて、にこやかに挨拶をしてくれた。
「はじめまして、大和といいます。よろしくお願いします」
作品名:心の病に挑みます。 作家名:大和雄志