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心の病に挑みます。

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やがて、夏休みがきた。臨時職とはいえ、公務員である。土日祝は休みであった。その休みを利用して雄志は、大阪PSW協会の夏季研修会に参加していたのだった。3年間の実践の積み重ね、成長できた姿を先輩にも見てほしいとの気持ちもあったが、まだクリニックを退職した精神的な疲労はとれていなかった。まだ病んでいた。研修では、先輩達の実践報告がなされていた。話しを聞きながら心がいやされてゆくのを感じた。障害者自立支援法による認定調査に対して意見が活発になっていた。雄志もこの時発言した。
「(プライベートなことを相手が聞いてほしくないだろうと)聞きたくないことをいかに聞かずに聞くか、が大事だと思います。」
と発言した。この発言には実習でお世話になった林先生が聞いてくださった。パネリストとして参加されていたピアニッシモの林先生は雄志の意見に共感して、
「今、大和さんがいいことを言ってくださった。そうです、そこなんです」と答えてくださった。
帰りには「同じ土俵で頑張ってくれることが嬉しいよ」とも言ってくださった。また、夜の懇親会では、若い大学講師とも知り合いになれた。
“私も努力して目指してみよう”とひそかな向上心を燃やすきっかけともなった。
帰りは、協会所属の後輩PSWが気を遣ってタクシーで駅まで送ってくれた。
「きてよかった、また参加したいな」
と思い、帰宅の途についた。
このまま臨時職(専門職)を更新し続けて公務員になりたいなと思ったこともあったが、何をやっていいいのかわからず手持ち無沙汰な状態が続く中、雄志は思い悩み始めた。
「やはり臨時職員では身分が不安定だ・・・」
また、上司も
「臨時職員から正職員にはなれないから、病院などで正社員を目指すべきだと思う。」
と言ってくれ、再び就職活動をすることを決意した。雄志には一般企業での経験を積みたいという想いが強くなってきた。この事務の経験を活かして近くで働きたい・・・そう思った。約半年お世話になった役所も年末に退職することとなった。上司は忘年会を開いて壮行してくれた。
精神保健福祉士の専門資格を取り、地域・医療・行政と三年半働いてきた来し方を振り返っていた。
 自分自身が学生時代に統合失調症となってから、その宿業を使命にと劇的に変えてこられた数年の歩みであった。様々な人との出会いを通じて人間的にも成長させてもらえた道のりであった。
 しかし、いずれ病気が回復すれば、福祉を卒業して民間企業で働かなければと思っていた。
「もう、精神保健福祉士としては働けないかもしれない。でも、自分の歩んできた道に悔いはない!」
そしで、充実した精神保健福祉活動を一旦卒業し、民間企業へ転職する道を選ぶのであった。
市役所をあとにすると、雄志は、缶コーヒーで冷えた体を温めながら、澄み切った青空を見上げていた。


<章=第二章 〜苦闘編〜>

苦闘

2006年5月、青空クリニックを辞める直前に、雄志は「職場で僕のことをよく思ってない人から狙われている」との被害妄想を確信するにいたり、精神症状が悪化、気分の高揚もあり、再び心の中が複雑に回転し始めた。
翌月には、初めての子どもが生まれるというのに、雄志はこられきれず退職の道を選んでしまったのである。そして、市役所臨時職員を経て、民間企業へ一旦転職するものの、長続きせず、4回目の転職先でのことであった。
2月もすぎさろうとしていたある日の夕方、雄志は人事部長に呼び出されこう言われた。
「君はここの戦力としてはダメだな」
雄志はいきなり解雇通告をつきつけられたのである。
「君は何か生活相談員としての数字をとってきたのか?」
「いえ、まだなにもできていませんが、できるまでしっかり頑張ります」
「もう君には無理だよ。」
冷たく突き離されたのであった。
「これからの1ヶ月、会社に来てもこなくても給料は保障する。そういうことだ。ただ、君にはやることがあるだろう・・・、就職活動をだ。」
“終わった・・・なにもかもおわった。”
心の中のなにかが音をたてて崩れていくのをとめようがなかった。雄志は絶望が覆(おお)いかぶさってくるのを痛烈に感じた。不況のあおりを受けて会社を首になってしまったのである。
「妻子を抱えていながらなんてことだ・・・」
雄志の転退職は五回目となっていた。
「妻に何て言おう・・・。いや、もう合わす顔がない。」
雄志は悔しさと怒りで泣きそうになるのをこらえながら、残務整理を始めた。やがてすべての引き継ぎを終えると、なぜか寒気におそわれた。肩を落としながら帰宅し、妻に正直に報告した。
「クビになったよ・・・」
「え!?あんた何を言ってるの?生活どうするのよ?」
嘉穂は眉間にしわをよせ雄志を問い詰めた。
「だからこれからすぐに探すんだよ」
「あなたこれで仕事辞めるの何回目なの?ちゃんと仕事してるの?あきれた、あなたにはほんと騙(だま)されたわ。離婚するわ」
嫌なものを見るかのような妻の視線が冷たく感じられた。
「待ってくれ。」
「なによ。」
「俺も一生懸命頑張ってきたんだ。急に配置転換されて『仕事をとってこい』といわれたが、何をすべきかホントにわからなかったんだ。」
「で、何をしてたの?」
「事務長の雑用や。周りの人に何か手伝うことありませんかと聞いても皆『間に合っています』ていわれるんや。仕事ないのに配属させられるて・・・うすうす首を切られるとは思ってたんや。」
肩を落としたまま、翌日には、雄志は精力的に次の仕事を探していた。
そして、失業給付の手続きをしないまま、次に電気工事の現場の仕事で働くのであった。
だが、再び“それ”は巡ってきた。夏の暑い日であった・・・。
30歳をすぎ、これからが男として人生の大事な時期になると自分自身に言い聞かせていた。雄志は数回の転職歴があった。何も好き好んで転職をしていたわけではないが、しかし、もう転職などしないで、今の会社で全力で仕事をしよう、と雄志は毎回、決意していた。
しかし、はじめはいいように採用されるのだが、いつもどこかで何かが続かない。
“継続して働く”
その決意は必ず何かのきっかけで崩れてしまっていた。
どんな職種であれ、仕事はきついもの・・・と知っているはずであった。しかし・・・
「すいません、辞めさせて頂きます。」
朝、携帯電話から職場へ電話をした雄志は、そのまま夕方まで寝込んでしまうのだった。
これで六回目の退職となってしまった。
やがて、妻が買い物から帰ってきた。雄志は言うに言われぬ重苦しい胸のうちを話し始めた。事情を話すと
「何回仕事やめてるの!先がみえないじゃない。もう別れるわ!」
「待ってくれ、俺の話しも聞いてくれ」
雄志は気力を振り絞って妻の理解を得るため粘り強く話しあう道を選んだ。
「俺は何も好んで仕事を辞めてるんじゃない・・・続けたくてもなぜか続かないんだ」
「そうやって、いつもいきつくところは人間関係なんじゃないの?」
「それもある。でも、仕事がなく暇なときに何をしていいかわからなくて、掃除したり、トイレに行ったり、ブラブラしたりしてたんだ。」
「前も言ってたわね、でも暇だからといって仕事がないはずないよ。誰かに聞かなきゃ。」
作品名:心の病に挑みます。 作家名:大和雄志