小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

心の病に挑みます。

INDEX|14ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

デイケアで大事なことは、プログラム活動を実施するなかで、集団力動を活用することができるようにグループを形成し、通所者の成長を図ることである。いわばグループは利用者にとって自己表現の場であり、他者からの承認を得ることを実感しながら自己尊重を経験する場である。デイケア運営上の意思決定は、スタッフだけではなく、利用者を含めて全員で話し合う全体集会を行なう。利用者が、自分の意見を聞いて取り上げてくれる体験を経たりして自己尊重を伸展さえていく機会になるのである。
利用者が自分の生活、人生の希望や夢を自身で組み立てられる過程に寄り添い、その人らしい生活をデイケア活動を通じて実現できるようプログラムを組み立てたり、社会資源を活用、連携するのだ。デイケアを利用すると「規則的な生活を送れる」「料理や家事ができる」「趣味をもつ」「仲間ができる」のだ。
診療所デイケアでは、一見、楽そうに思えることもあるが、資格のない人には簡単に真似はできない。人格的にも基本的となる技術を身につけねばならない。
 人が好き、ということも大事な要件だろう。何よりも精神疾患の方への援助技術が必要なのだ。特殊な技術というよりも人への関心と幸せを願う心があれば、智恵はいくらでも涌いてくるものだ。
散歩のプログラムでは近くの公園を40分かけて時折、休憩しながら会話に花を咲かせながら歩いていく。下を向き、突進するように道を歩く人もいるが、景色を見ながら花の美しさに触れながら歩く人もいる。ときどき道ですれ違う人と挨拶を交わしながら、爽やかな汗を流すのだ。少しずつ暑くなる七月であったが晴れた日はとても気持ちがよい。また、スポーツをするなら怪我人がでないか神経を擦り減らしみていかねばならない。スポーツも、メンバーさんと一緒に準備していくことがポイントだ。一人で自立的になんでも準備することを求める支援ではなく一緒にする!一緒にプレーするのだ。やろうという気持ちになるように支援していく技術が求められる。
“やってあげる”支援は自立力を疎外するのでいけない。また自立を求めて“やるのを監督する”のでもない。
 雄志の場合は頭でっかちなので、もっと肩の力を抜かないといけなかった。ミーティングでは相反する意見をお互いに確認しあいながら、また了解をともに得ながら一つの意見に集約していく技術が求められる。例えば、レクのミーティングで、京都のお寺・近くの温泉・海遊館の順に希望があったとする。簡単に一番人気にしましょうというと、ブーイングが起こるので、票の多かった二番目までで決戦投票とする。また、全員のルールとして、一票でも多い方にいきます、と決めておく。そうすると反論がでたとしても「みなさんで決めたことですよ」と根拠がもてるのだ。京都の寺を観光したいという意見は一番多かった。
利用者は行き先が決まってひとまずほっとするが、職員は決めたあと、段取りまで細かく確認していく。エネルギーを使う仕事ではあるが、雄志にとってはこれもやり甲斐のある仕事となった。
 もっともこれだけで福祉の仕事は終わらない。ソーシャルワーカーの専門性は調整と連携が命なのだ。デイケアでは、午前に栄養士等が中心となって、昼食をつくる準備をする。PSWの視点からすれば、メンバーの食べる食事はメンバー自身が作れるようになってゆくのが理想的である。メンバー自身が作っていけるよう声かけをしていくのだ。
ただし、メンバーによっては、なかなかそれは難しく三歩進んで二歩下がるようなもどかしさもある。ソファーでテレビをみてくつろいでいるメンバーにも参加してもらいたい(参加を促す)ので声をかけていく。
 その時、ただ「何をゆっくりしているんですか」と相手を責めるような声かけは慎みたいし、「参加してください」と一方的な声かけはしない。「〜さん、ジャガイモの皮だけ向いてもらってもいいですか?」とか「一緒にどうですか?」とメンバーに合わせて同じ立ち位置から声かけしていくのだ。
午前中はご飯をつくるか、何かスポーツをし、昼からは畑に参加する。山の畑では自然と触れ合い景色をみては心を癒していた。
それが仕事なのか?と読者の方は思われるかもしれない。雄志に与えられた仕事は目的地までの運転と見守りが主な役割であった。例えばメンバーが、張り切りすぎて休憩もとらずに土を掘り起こし続けるときは声をかける。作付け計画などもメンバーと考えていく。ただ、夏になるとみなバテてしまいすぐに休憩してしまうのだが・・・
 また、レクレーションで観光として、京都の寺や神社を希望する人が多いため、そこへメンバーと一緒に参加し、自然の景色に共々に癒されることも多かった。
自然の生命エネルギーを体で感じ、自然の息遣いを肌で感じ、気分が爽快になって大空へ胸が吸い込まれてゆくのを感じることもあった。
毎朝、早くから患者さんが青空先生の診察を心待ちにしている。雄志は予診(インテーク)という予備診察を行う仕事にもついていたのだ。医師が診察をするときに患者さんの状況を正確に把握するためにも、このインテークが大変重要になる。もちろんインテークを医師自ら行うこともある。来院された患者さんがどういう生活歴であったかを詳細に聞いていくのだ。
しかし、「この年は何をしていましたか」とただ質問するだけの聞き方では、追及される感じがして患者さんは嫌な思いをするだろう。
「失礼かもしれませんが・・・教えて頂けますか?」
と前置きするだけでも全然違ってくる。あとは、水の流れのように自然体に必要なことを相手に嫌な思いをさせずに聞いていくのだ。
 話を聴く、相手がはなしたくなるように自在に引き出していく、そういう技術と智恵を積んでいきたい。相手への敬意を充分に払いながら話をすすめ整理していくとやがて特徴とでもいおうか、パターンがみえてくる。
“どこがこの人の発達・成長を阻んでいるのだろうか”
と注意を払いながら話を聴いていくと、大黒柱としての父親が子どもにどう関わってきたかによって結果が随分違っていたりする。
例えば性的虐待があったときなどは、あきらかにそれが精神症状の原因と考えられる。そういうひとには臨床心理士によるカウンセリングを受けてもらったりするのだ。
 また、総合病院で診てもらったが、原因がわからず精神科を訪れるケースも多々ある。ただし、頭が痛い、うつになったという人でも、株で大損したのが原因というのでは、精神科のお薬だけで治るものではない。薬は根本的に大事である。しかし、薬がその人の心のすべてを解決してくれるのではないとも感じだ。
 病院には入退院の調整役としてケースワーカー(ソーシャルワーカー)が配置されている。この調整・連携が雄志の仕事であったが、これが一番難しく、フォローされることが多かった。結局、ベテラン看護師が中心になってケース会議を設定してくれたりしたが、この詰めの設定ができないところも雄志の障害なのかもしれない。
さて、外来はいろんな悩みを抱えた人がくる。雄志は自分自身がさまざまな悩みを抱えながらも、いつしか自分が悩める人の話しを傾聴する側へとなっていったのである。
作品名:心の病に挑みます。 作家名:大和雄志