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心の病に挑みます。

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実習日誌は考察とはほど遠く、はじめは感想文であった。また、雄志が参加した利用者の『受け入れ会議』では支援センターの受け入れではなく、訓練施設の受け入れ手順であるなど、まだ混同していた。『訓練施設』といっても特訓をするわけではなく、心を休めるスペースの提供である。
 また、スタッフミーティングが午前と午後にあり、食事会がもたれるだけの時があったり、午前中食事をつくって昼からビデオ上映するだけのときもあった。これは精神的に楽であった。こんな仕事につけたら楽でいいだろうなとほんとに思った。しかし閑散としている空間の中、実習生として利用者とコミュニケーションを取っていくのだ。雑談ながら観察が要求された。計画性のないプログラムなどはここにはなかった。食事をそれぞれが勝手に作っているわけではなく、メンバーの“参画”の意味合いがある。
 準備に疲れて途中で放り出したり、ビデオ上映途中でいなくなるなどは、その“特徴”である。
“いい加減”であることもポイントと教えてもらった。
 8月のある日の記録には、旅行に行く計画をメンバーで話しあう時、「行きたい」人は多いが「お金は出したくない」人も多い。その時、スタッフが「自分の考え」を言うのではなく、あくまでメンバーと一緒に考えていく姿勢をとったことに雄志は共感を覚えている。
また、セルフヘルプグループとしての施設内グループがあるが、調理・衛生・接客・品質管理に関する講義を調理師専門学校の講師が担い、この講座を経ないとセルフメンバーには選ばれない基準もあった。
 雄志は漫然と話しを受け流すところであったが、あわてて気をひきしめて実習の林先生のスーパービジョンを受けた。優しい、温かい、だけでそれに安心して甘えてはいけない。全てのプログラムには意味があるのだ。意図があるのだ。
 メンバーとコミュニケーションをとるといっても、ただ名前と顔を表面的にたくさん覚えればいいのでは仕事にならない。会話と表情の反応を自然体で観察し、メンバーの持っている回復力を引き出していく・・・。
“生活のしづらさ”が施設利用の背景にあることを念頭におきたい。その人のどのような“心”が、どのように”生活のしづらさ”をもたらすのか、検証し改善していく研究も必要かもしれない。例えば、ものを粗末にする“心”、最後まで丁寧に仕上げられない“心”が、整理できないことにつながったり、仕事のミスにつながり、信用を失う。給料が変わらず「こんなに頑張っているのに」と不満の悪循環に落ちていく・・・などである。また少し話しがそれました。
では実習の中盤以降を見ていきましょう・・・

〜8月某日の実習日誌より〜
 地域生活支援センターが(行政、近隣クリニックなどの)運営連絡会議の中核となり、就労のモデルケースになるだろうと、雄志は着目している。
課題として精神障がい者の就職者へのフォローアップ、障害者職業センターとハローワークの密な連携などがポイントになるのだ。
また、メンバーとスタッフが共に雑談し合うプログラムがあるが、雄志は気がひけて会話の中に入っていけず、「しゃべれるようになります」と書いているが、「別に無理にしゃべる必要はありませんよ」と林先生より指導されている。さらに施設案内をするときにメンバーが施設を案内する『ピア』の概念も取り入れている。
 実習後半の8月下旬になるとようやくメンバーさんと会話しながら様子を観察することができるようになっている。
 食事づくりで何をやっていいのかわからないメンバーが、周りの人にいろいろ聞きながら頑張っていったり、その人がしんどそうに見えるのに「しんどいですか?」ときくと、そうではないよとの答えが帰ってくるなど、コミュニケーションが少しとれるようになってきたのだ。この日は交流を深める一日となった。雄志は初日と違い人が変わったようにメンバーと関わっていった。
ある人は『昭和X年の盗聴事件』について意味深げに語り始めた。
「なるほど、そうですね」
と傾聴すると、その人にとって『盗聴』が真実の歴史になってしまう。時折、
「そうではないと思いますよ」
と加えても頑固に受け入れない。
「あ〜こわ〜」
とそのメンバーさんは自分で納得し(?)信じ込んで去っていくのであった。
 また貴重なボランティア体験を語ってくれた人もいたし就職について尋ねてくれた人もいた。雄志の体験では浅いが、雄志なりに思うことを伝えさせてもらったのだ。
 翌日は『セルフヘルプグループ』の修了式であった。いつも猫背のある人はこの日は背筋をピンと伸ばして修了証書を受け取った。照れている人、温かく見守る人、みな、かなりの努力をされてきた。
 今後このグループが活動される中で実際にどう変わってゆくのか、良い点と体調面で頑張りすぎて疲れないか、気をつけていかねばならない点を理解していきたいと結んでいる。9月に入り、雄志はスーパービジョンを受ける。こう指導された。
 グループワークには場面(プログラム)設定があり、メンバー本人及び同じ仲間であるメンバー同士の力を借りてプログラムを設定し、これを専門家として活用します。
 プログラムにはグループワーカー(専門家)が必要でそれぞれのメンバーやスタッフ、実習生などに話しを振っていく中でその反応を確認していきます。
 ワーカー(スタッフ)や実習生が入ることでメンバーの様子がどう変わっていくのか読み取っていき、次のプログラムのためにPSWのそれぞれ異なった意見を記録していきます。
 そして次回にスタッフとメンバーの席の配置を変えてみたりして再びその反応を確かめていきます。
 しかし、雄志は二つのプログラムに出るよう指示されたにも関わらず、「Aさんは私がいるとしんどそう、直感でそう思った」と勝手に判断し、スタッフルームに戻っていくことがあり、注意されることもあった。
 また、精神障がい者が継続して働くうえで大事なことは健康管理であり、しんどくなったときに誰に相談し、どのようにストレスを解消していくのか、メンバー・スタッフ双方から意見がだされ、最終的に支援する人が誰であるかを確認していく必要があるとの結論であった。
 “程度の差こそあれ、ソーシャルワーカーである私たちにも共通するものなので、私たちは『教える』という立場ではなく、知恵を出し合う場のコーディネーターである”と教えてくださった。
 メンバーが安定した職業生活を送るにはどうすればいいか、メンバー自身がそれぞれ抱負を語りあい、励ましていたのであった。
 実習生である雄志にとっても大切なことをメンバーさんから種々、教えてもらいながら、ピアニッシモでの実習は無事に終わったのである。
雄志の症状は、薬の副作用である手の震えや、ぎこちなさ、固さ、直感的で勝手な自己判断による行動などがときどき見受けられ、結果、スタッフ全員に雄志が統合失調症であることが伝わってしまった。
 前半は自分の想いや価値の中でしか物事をみられずちぐはぐな記録をしたり、主観と客観の区別ができなかったりした。それでもこの施設は温かく迎えてくれたのであった。
作品名:心の病に挑みます。 作家名:大和雄志