幽霊青年と赤マフラー
部屋を出てから人通りの疎らな道を歩く
お店の横を通るたびに窓ガラスを見るが僕が反射して写ることはなく、決まって後ろの建物を写していた
僕は今までに何人もの人に死ぬ事を教え、死ぬ所を見てきた
その数はもうそろそろ小さな学校を作れそうなほど
しかし、会った人全員に僕の事を知っているか聞いても首を縦に振ろうとする者は居なかった
誰かが【世間は狭いものだ】と言っていたけど、やっぱり世間は広いものだと思う
自分は何者なのか
忘れてしまった自分に問いかけた所で良い答えが出てくるはずもなく、自然ともどかしさだけが募っていた
溜め息を吐きながら更に奥の路地へと続く角を曲がる
すると、膝を抱えて座り込んでいる女の人がいた
ぶつかるはずは無いのに思わず足を止めてしまう
茶色の髪は腰ギリギリまであるのか、毛先が地面に付いたり離れたりを繰り返している
首に赤いマフラー、至って普通のマフラーの筈なのに何処か見覚えのあるものに思えた
…生前、僕は赤マフラーの住人だったのだろうか?
くだらない思考を止めると、すいぶんと彼女を見つめ続けていた事に気付く
いくら向こうからは見えていないといえど、見つめ続けるのは些かマナー違反だろう
目を反らそうとした瞬間、下を向いていた筈の彼女と視線かぶつかる
「…何か様ですか?」
『…あれ、僕が見えるの?』
「質問を質問で返さないでください」
呆れ顔で立ち上がり、スカートに付いた埃をはらう
彼女の顔には特に数字は書かれていない
…なんで見えるんだろう?
「何で見えるのか、でしたっけ?
私、霊感があるんです
で、貴方は何か用があったのでは?」
『そこに座ってたからどうしたのかな~?
って思って』
僕が幽霊と分かっていても、彼女は呆れ顔のままだった
折角会ったのだからと簡単な自己紹介をすると、ぽつりと「…七瀬柚葉」と呟いた
柚葉ちゃん、個人的に好きな名前
いい香りがしてきそうじゃないかい?
僕がそんな事を考えている中、彼女は時折難しい顔をしては首を捻っていた
が、不意に僕の腕を掴んで走り出した
『きゅ、急に何処に行くのさ!?』
「海月、貴方暇なのでしょう?
なら、着いてきて」
『…え?
えーーーーー!?』
結局半場拉致状態で彼女に付き合うことになった
…それにしても、名前を呼ばれたときの懐かしさは一体なんだったのだろう?
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それから3日間はジェットコースターよりもめまぐるしく色々な場所へ行った
遊園地、動物園、映画館、ディ●ニーランド・シー、デザートの食べ放題、カラオケ、ショッピングetc...
疲れを知らない幽霊でも疲れるというのに、どうして柚葉ちゃんはあんなに元気でいられるのだろうか
そんな疑問を他所に時間は進み、12月25日、クリスマス______
作品名:幽霊青年と赤マフラー 作家名:渚 奏