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くにおの世界

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6 私、車と相性悪いんです。彼女はハンドルをぎゅっと握り、言った。二人で初めての旅行、その帰り道である。さっきのサービスエリアで運転を交代して、五分と経っていない。帰りがけで疲れているだろうし、行きだってずっと俺が運転していて、帰りだってもちろんそのつもりだった。休憩のつもりで寄ったサービスエリアで、俺は左手首をひねってしまったのである。「相性悪いって? 別に、運転上手いじゃん」「そういうことじゃないの、ほら、よくあるじゃない。幽霊に連れられて崖につっこむところだったとか、カーナビが墓場にセットされてるとか」しっかり正面を見ながら、そんな話をしてくるのが少しおかしい。プッと噴出したことを軽く謝り、俺は言った。「ちょっと意外だな。そーいう話好きなんだ?」ボトルホルダーにさしっぱになっていた、眠気覚ましの缶コーヒーをカコッと開ける。「作り話だと思ってる? ほんとよ」車は森に差し掛かり、右も左も風で揺れる木々のやわらかそうな葉しか見ることが出来なくなった。しかし、この峠を越えれば住宅街に入り、俺たちの住む町だ。「去年の話だけど……友達に車を借りたの。中古車だって言ってた。でも立派なカーナビが付いててね、用事があって借りてたんだけど、ずいぶん役に立った。夜、私の家の前にとめて、明日の朝に返すはずだったんだけど、カーナビが、ずっと別の場所を指してるの」黙って聞いていた俺だったが、先ほどの彼女の言葉を思い出した。「カーナビが墓場に」……。「まさか、墓場?」「いや、違って。普通の十字路だったんだけど。それも近くの。なんたってソコを指してるのか、ちょっと気になってコンビニがてら行ってみることにしたの」峠をぐんぐん登っていく車。急な坂道なので、彼女はアクセルから足を離せないようだった。「なんで行っちゃうんだよー!」「気にならない?」「それパターンだもん!」「まあ、そう、ね。そうだったんだけど……。で、十字路に行ったら夜遅いのもあって、どこにも誰もいなかったの。信号と、外灯だけがけなげに働いててね、わきにあったGSも閉まってた」「ん? なんもなかったの?」「何よ、期待してるじゃない」「ここまで来たらな」「じゃあ……十字路についてね、ライト先の道路の、おかしいことに気付いた。雨上がりみたいに、地面が濡れて見えたの。でもその日は雨なんか降ってなかった。昔ね、交通事故の直後の道を見たことがあるの。急にそれを思い出して」車は下り坂に突入して、ゆるやかなカーブを描いている。「それ、まさか」「そう、血の海よ。十字路の真ん中、血の海」「ふーん、血だけ?」「うん」「五〇点だなー」「何よ、もう」ハナから信じてないのね、と彼女は憤慨したようだった。「俺なら真ん中に死体でも置いとくなー」「それじゃただの轢き逃げじゃない」「駆け寄ったらさ、お前が死ねばよかったんだ!とか言って消えるの」「なんで恨み買わなきゃなんないのよ。その後ね、調べたらやっぱり事故車だったの。その、十字路で」「なんでわかったの? そんな事」「中古車ディーラーに耳打ちしたの。気になって」次の瞬間、ガコッっと車が何かに乗り上げた。やばい。これは。スピードを落として、後ろを振り向くと、長い髪を振り乱して横たわる女性が外灯の下に見えた。「おい、まじかよ!」「大丈夫、キツネか何かよ」「いや、女だよ! 人轢いちまったんだ!」俺の剣幕に、彼女はびっくりしたようで、車を止めて二人で降りた。彼女の話のように、血の海の真ん中にいたのは、ぴくりとも動かない女の死体である。呆気にとられて立ち尽くした俺の、腕を掴んで彼女は言った。「やっぱりキツネよ」とても息のあるようには見えない女が、ギギギ、と歪んだ顔をこちらに向けて、ぼそりと何か言った。「……まえが、死、」冷ややかな声で彼女が言う。「おととし、私が轢いた女だもの」

作品名:くにおの世界 作家名:塩出 快