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くにおの世界

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3 肝試しとか、ホントだめなんだ、俺。昔、酒の勢いで、っていうと、なんだか色っぽい話みたいに聞こえるな、そうじゃなくて、洒落にならない事あったからさ、肝試しで。なに、聞きたいの? 勘弁してよ、ホント怖かったんだから。あれは俺が大学生の時……え、結局話すのかよって? だってそういうフリでしょ。これ。仲間数人で飲んでた俺たちは、盛り上がって盛り上がって、何故だか国道を少し行ったところにある廃墟に、肝試しに行くことにした。バイト帰りに合流する予定で、まだ酒の入ってない一人をとっ捕まえて、強引に運転手にして、俺たちは日産カローラで走り出した。その廃墟は昔は病院だったらしい。俺が物心つく頃には既にその状態だった気がする。そうして、割れた窓から院内に侵入した俺たちは、途中で買った懐中電灯を持って練り歩き、そこそこ怖いながらも楽しい思いをして車まで戻ったわけだが、「あれ、俺、ケータイがない」「おいマジかよ」「落としたってことか?」「どこで。部屋じゃねーの」「いや、あんなかで一回見たから」「おい勘弁してくれよ」心地よい酔いも醒め、俺たちは戸惑った。また廃墟に戻るなんて無粋な事はしたくなかった。「もしかしたら出たところの茂みで落としたかもしれないし、一回かけてみようぜ」そう言って、仲間の一人が俺の携帯電話に電話を掛けた。プッ、プッ、プッ、プルルルル……呼び出し音は鳴れど、俺の携帯電話の着信音は聞こえてこない。これは確実に、この廃墟の中だ。「マジでー」「戻る?」「おい、繋がったぞ」「え?」「誰か出たの?」「もしもーし! そのケータイ落とした者ですけどー!」「なんだって?」「女の人が、早く取りに来いって」電話をした奴が小声で俺たちにそう言った。「お前、廃墟に落としたとか言いやがって」「おかしいな、確かに時間見るのに使った気がしたんだけど」「で、どこにあるって?」「あのー! 取りに行くんで! 今どこにいるんですか?」次の瞬間、電話口の声が、俺たちにもはっきり聞こえた。『さっきまで居た病院の中よ』俺たちは、その日一人の家に全員で泊まり、身を寄せ合って一夜を過ごした……。次の日の朝、明るい時間に皆で携帯電話を取りに行った。女が言った通り、俺の携帯電話はガラスの散乱したもと病室みたいなところに転がっていたんだが、そいつには赤黒い液体がべっとりと付いていた。いや、まじで。

4 あ、四講終わってる。

5 大学生というのは気楽なものだ。そして、実に勝手である。気の合う仲間どうしで飲むような、サークルの集いなんかは特にひどい。確実に一人は潰れ、眠り、終電を逃して誰かの部屋に転がり込む。その日も、とある友人はしたたかに酔っていて、一人では真っ直ぐ歩けないほどであった。仕方がないので、飲んだ店から徒歩圏内にある俺の部屋に泊める事にしたのだが、これがもうウザくてウザくてしょうがない。なんたって、いつ吐くかわからんような顔色の男を担いで、春も訪れたばかりという頃に汗だくになりながら家に帰るという。その後も、酔っ払いの扱いには困るし、もうウザい。てかタルイ。仕方がないので新聞紙を広げて簡易ベッドにして、玄関の方に転がしておいて、俺は自分のベッドで寝た。朝、「寒い」と言われ、俺は起きた。最悪の目覚めだよ。友人は「まじで寒い」とかそればっかり言ってて、昨日は誰がお前の面倒を見たと思うんだと怒りばかりが込み上げてきた。ぬくい布団からは離れられずに、俺を揺さ振り続ける友人を無視することを決め込んで、無意識の寝返りを装って友人に背を向けた。その時、彼は気になることを言った。「朝方にさ、誰か玄関から入って来たじゃん、だから寒くて」と。部屋の玄関はしっかり鍵を掛けてある。合鍵を渡している娘もいない。俺は飛び起きた。そして、部屋全体を見渡す。部屋には俺と友人しかいなかった。友人の夢であると信じたい。

作品名:くにおの世界 作家名:塩出 快