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くにおの世界

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2 あー雨降ってるよ。傘さして行かなきゃ。雨粒がアスファルトに飛び降り自殺して跳ねる、そんな表現が似合う豪雨の日だった。大学までは自転車で十三分、歩いて三十分かかる。雨だから、もっとかかるかな。そう思って家を出た。雨の断末魔で車のエンジン音すら聞こえない、ひどい塩梅だ。イッツーの小さな道を歩いているので、何度か轢かれかけた。次の角を曲がると、川がある。きっと増水して凄いことになってるんじゃないかな。少し楽しみ。無表情で黙々と歩いているように見えるんだろうけど、心の中では鉄砲水にうきうきわくわく踊っている。さあ、あと一歩。川の状態は予想以上だった。いつもより水面は高く、幅も広い。いつもは透明で、水底の岩に繁殖した藻のみどり色だって覗けるというのに、今日は川全体が泡立って白い。大木すら軽々と下流へ運んでしまいそうな勢いで、人間なんかあっという間に呑まれて、二度と浮かんではこれないだろう。そんな中、健気にその場所で踏ん張る小枝を発見。なんて健気。あの枝は昔からあそこにあったけれど、こんな急流の中でもその場所に留まり続けるだなんて。思わず立ち止まって、枝を見つめる。傘を叩く雨は少しも緩まず周りの景色を淡いものにしている。空全体を覆う雨雲のせいで朝だと言うのに薄暗いままだ。そのせいか、そのせいで、一瞬、川面から飛び出た細い枝が子供の手に見えた。ざぶん。私の体が、川の中に。苦しい、息が……。流れが速くて、強くて、水から顔を上げることが出来ない。川の水は冷たく、意識が朦朧としてきた。傘は既に流されてしまっている。そうだ、傘……かろうじて川面に出た右手は、何を掴むこともなかった。次の瞬間、私は傘をしっかり握って、川の見える道路に立っていた。汗か、雨か、……川の水か。体中じっとりして、服が肌に張り付いて気持ち悪い。今日という一日が始まったばかりだというのに。そうだ、学校。腕時計を見たら、既に一時限目が始まってしまっていた。遅刻だわ。

作品名:くにおの世界 作家名:塩出 快