放課後シリーズ
弓道場は運動場の一角にあり、他の部活の音が常に聞こえているはずなのに、すべてが消え去ったかと錯覚した。自身によって創り出された無音の中で、ゆっくりと弓を引く森野と上芝の姿は、一年生の国語力では喩えようがなく、ただ「流れるような」と言う形容が、その一連の動作のために存在しているのだと思えた。
一目で魅了された。知らなかった弓道が、身のうちに入り込んだ。思い出すだけでも身震いがする。
あの時の自分達の姿が、見学者の中にあった。
「射手は主将の杉浦と副将の小橋が務めます」
進行役の二年生のその言葉を合図にして、射位に向かう段取りになっている。
「やべ。緊張してきた」
杉浦が袴で掌を拭いた。
「言うなよ」
小橋だとて、さっきから掌が熱い。
何事に動じず、飄々とした『極悪コンビ』――杉浦と小橋は、彼らの後姿を確かに弓道場の中に見ていた。
「行くか」
どちらともなく呟いて、二人は新しい一年を踏み出した。