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放課後シリーズ

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 今年は二十人以上が見学に訪れていた。杉浦と小橋が新入生として見学に来た年は五人で、それは部員がノルマで無理矢理引っ張って来た最小人数だった。翌年は自ら見学に来た七人と、勧誘した五人。今年は呼び込みをしなくても、自然と人数が集まった。これは前年のインターハイで個人・団体とも総合優勝したことが宣伝効果となっているのだ。そしてそれは、前主将と副将の功績が大だった。
 前主将は森野皓(もりの・ひかる)、副将は上芝知己(うえしば・ともみ)で、杉浦と小橋はこの二人に導かれて弓道を知った。
「どうしようもない人たちだったけど、弓だけはすごかった」
 小橋は呟く。独り言のつもりだったが、杉浦が「うん」と相槌を打った。
 森野と上芝は遥明学院高校弓道部史上最強の射手にして、最悪の主将・副将コンビだった。長らく低迷し廃部寸前だった弓道部を建て直し、在校中の三年間で一躍全国区に押し上げたのだが、二人とも隙あらば練習をサボり、部活時間中を弓道場で全うしたことがない。故についたあだ名は森野が『サボり魔王』、上芝は『マイペース大王』、二人一緒では『極悪コンビ』と称された。杉浦と小橋は彼ら二人が勧誘したこともあり、入部早々、見張り役を押し付けられた。森野と上芝が引退するまで、その尻拭いばかりしていたようなものだ。
「弓道部なんかに入る予定、まったくなかったのにな」
 杉浦は他の運動部に入るつもりだった。弓道部は新入生歓迎会の時に、暇つぶしで見学したに過ぎなかった。
「俺は帰宅部でいいと思ってた」
 小橋は貧弱な体格ゆえに運動部の部活に縁がないと思っていた。弓道部へは成り行きで見学に行った。それが各々、森野と上芝とに出会い、見学者のためのデモンストレーションである彼らの射礼を見たのだ。
 あの時の感覚は忘れられない。
 礼をとって射位に立つ。上芝が上手、森野は下手。まずは上芝が的を突く(弓で的を指し見据える)と、左片肌を脱ぎ、射法に入った。一呼吸置いて、森野が同じ動作で続く。
風が矢道から射場に吹き込んだ。射手二人の前髪を揺らすが、彼らは『気』を散らすことなく、ただ静かに前を見据える。
作品名:放課後シリーズ 作家名:紙森けい