放課後シリーズ
背は同じくらい。天然パーマで少し茶色がかった柔らかそうな髪が、ほわほわと風に揺れた。表情からは怒った感じを受けなかったが、『普通の子』が危ない昨今、油断は出来ない。杉浦は唇を引き結んだ。
その上級生は杉浦が持っていた新入生歓迎会のパンフレットを手から取ると、中をパラパラめくる。杉浦は回った部活に印をつけていた。
「サッカー部に、バスケ部に、水泳部に…、へえ、結構、回ったんだな? イマドキの新入生には珍しいこった。どれもこれもそこそこのとこだけど、やったことあんの?」
「サッカーは小学校からやってます」
「サッカー部かぁ。うちの、強いよ? 特粋(特別推薦枠)で入ったヤツらばっかりで、百人近くいるし」
そんなことはとっくに知っている。だから別のクラブも見て回っているのだ――杉浦はしかし黙っていた。
「経験なかったら、運動部はまず基礎練ばっかだし、新入生はまあ下働き専門で、一年を無駄にするよな。我慢出来んの?」
「最初はどこだって、そうだろ?」
「ところが弓道部なら、即レギュラー間違いなし」
彼はパンフレットの弓道部のページを開けて、杉浦に見せた。ページ四分の一を割り当てられた紹介欄には、部活風景を映した写真と、創部歴、最近の競技成績が載せられていた。創部は学校創立とほぼ同じだ。成績は前年度のもので、地区大会団体戦準優勝、個人戦四位。これらの成績が良いのか悪いのか、杉浦にはわからなかった。ちなみにサッカー部は全国高校サッカー選手権大会のベスト8だ。つまり全国八位以内。
「でも俺、弓道って見たことないし」
「今から演武があるから」
「演武って?」
「簡単に言えば、デモンストレーション」
「やったことないし」
バスケットや水泳、陸上などのメジャーなスポーツなら、体育の授業でやったことがある。しかし弓道となると、未知の世界だった。武道系でも剣道や柔道ならまだしもだ。弓道は杉浦が想像するにかなり腕の筋力が要りそうで、今まで足でしか勝負してこなかった自分には、ますます無理だと思えた。
「全然、平気。いい見本が俺。ド素人で出た去年の地区大で八位だぜ」
――それって、大会のレベルが低いってことじゃ…。
まったくの初心者でも即戦力になれるのだとしたら、弓道部の実力はたかが知れている。ある程度、しっかりした運動部の部活を経験してきた杉浦には、物足りないに違いない。