放課後シリーズ
その様子を横目で見ながら、小橋は森野の言葉を反芻する。
――本当の射…か
上芝の『本当の射』、そんなものがあるのだろうか? 基本に忠実で美しい今の『射』でも、充分、上芝の『射』に見える。杉浦同様、疑問が消えない小橋だった。
時計は起床時間を差していた。朝食係の当番になっている杉浦と小橋は、後片付けを始める。森野は残ってまで打つ気はなかったようで、結局、一本も打たないまま、二人と共に道場を出た。
レクリエーション・ルームに向かう途中で、学食の方から歩いてくる上芝と出会う。ジャージ姿で、いかにも眠そうだった。
「おまえ、どこ行ってたんだよ?」
森野の問いに、彼は自分で肩を揉みながら、首をコキコキと鳴らす。
「いびきがうるそーて寝れんかったから、談話室で寝てた。何や、朝練でもしとったんか?」
三人の形(なり)を見て、上芝が尋ねる。
「したさ」
と答えたのは森野だったが、杉浦と小橋は「うそつけ」と心の内でツッコミを入れた。その声なき声は上芝に聞こえたらしく、疑わしい目を森野に向ける。
「おまえが? いつからそない、真面目になったんや?」
「俺はいつだって弓には真面目だぞ」
「GWはあと三日あるねんから、大雨にせんとってくれよ。世間に迷惑やから」
「なんだ、そりゃ? 失礼だな」
森野と上芝は並んでレクリエーション・ルームに向かう。杉浦と小橋もその後に続いた。
とりとめもない会話を交わしながら、前を行く二人。彼らの間には不可解な法則があって、それは微かに発熱している――周りに気づかれることなく、静かに帯びる熱だ。
森野の『熱』には少し触れた。上芝のそれはまだ正体が知れない。が、確かに感じられる。
後輩二人は前を行く二人の後ろ姿を交互に見ながら、「『極悪コンビ』、なかなか奥深いかも…」と呟いた。