小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

放課後シリーズ

INDEX|21ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 

第四回 彼らのベクトル




「皓(ひかる)、どこに行く気だ。地区大会も近いってのに、サボってる暇ねぇぞ!」
 昇降口まで辿り着いた森野皓の目に、仁王立ちした兄・顕の姿が入った。この絶妙なタイミングは、先回りして待ち構えていたに他ならない。こんなことなら上履きのまま裏門から出れば良かったと、森野は自分の馬鹿正直さ加減を呪った。しかしたとえ裏門に回ったところで、兄のことだ、次なる刺客(=先輩)を用意しているだろうし、入学してわずか二ヶ月の森野には、塀をよじ登って越える勇気も背丈もまだなかった。
「痛いよ、兄ちゃん」
 胸倉を掴まれ、弓道場への道のりを引き立てられるようにして歩く。すれ違う生徒達の寄越す視線など、兄はおかまいなしだ。
「もうさぁ、四人目が入ったんだから、いいじゃん、俺が抜けたって」
「馬鹿たれ。素人ばっかの一年なんて、何人いても足りないくれぇなんだよ」
 兄が主将を務めていることもあって、森野は入学と同時に弓道部に引きずり込まれた。小さい頃から時間や規律に縛られることが嫌いで、中学でも帰宅部だった森野の性分は兄も十分に把握しているはずだが、管理し辛いとわかっていても、彼がそんな弟を入部させなければならなかったのには、弓道部存亡がかかった事情があった。
 学校創立と共に創部された遥明高校弓道部は、歴史と伝統だけは立派な部活だったが、戦歴は惨憺たるものである上に、近年、部員確保も競技会出場もままならない、弱小クラブに成り下がっていた。森野の兄を始めとする現三年生三人が入部した時、人数的には一時盛り返したが、翌年には途中入部も含めて僅かに二人。今年最低三人の部員獲得と、部活動の――つまりインターハイ等の地区予選に出場するなりの履歴を残さなければ、二学期からでも同好会に降格させると生徒会の体育部会から通告されていた。体育部会内での予算争奪戦は毎年熾烈になるし、その予算が下りる部活昇格を狙う同好会は引きも切らない。実績もなく、傍目から活動しているかどうかも怪しい弱小クラブに対して、あちこちからの風当たりがきつくなるのは仕方がないことだった。
 森野と、自発的に入部した一年生二人で、何とか部員獲得数のノルマは達した。あとは六月中旬から始まる地区大会出場と言うことになるのだが、ここに来て出場メンバーの三年生一人が骨折で戦線離脱、新入部員からの出場を余儀なくされたのである。
作品名:放課後シリーズ 作家名:紙森けい