放課後シリーズ
この法則はそれぞれの見張り番二人が漠然と感じ取ったことで、杉浦も小橋も今まで互いに話すことはなかった。
「ドライな関係だと思ってたけどね」
小橋は去年の夏のミニ合宿を思い返す。彼が上芝に対して、妙な違和感を初めて持ったのは、その合宿だった。状況は今日と同じ。途中から隣で森野が引き始めると、上芝は見る間に調子を落とし、ついには眼鏡を弦で払うミスを犯した。スペアの眼鏡を取りに出た彼に付いて歩いた廊下で、交わした一言二言の会話。その中に飄々とした普段の上芝らしからぬ言葉を、小橋は拾った。
『コンタクトにしないんですか?』
『コンタクト、合わへんねん。慣れるん待っとったら……』
言葉の最後はその時は聞き逃したが、「引き離される」ではないかと、後(のち)に小橋は思うようになった。
弱小の遥明弓道部を、無意識であるにせよ引っ張ってきたのは森野と上芝だ。小橋達が入部した頃にはすでに、将来の主将・副将、そしてライバル同士足ると目されていたが、本人達には微塵もその気は感じられなかった。『極悪コンビ』として一括りにされてはいても、特別、仲が良くも悪くもなく、部活以外で二人一緒にいるところを見たことはない。むしろ彼らの間は、限りなくドライに見えた…のに。
「でも上芝先輩の矢筋を見る目は、真剣だ」
杉浦は射位に並ぶ主将と副将の姿を思い出す。森野は間に何人入ろうと、必ず、上芝の左に位置を取った。目の前にする恰好だ。上芝の離れを確認し、ゆっくりと打ち起こす。彼の矢の行方から決して目を離さない。的中を見届けると、それを追うかのように森野の矢は放たれた。
あの目――表情は、あの一瞬にだけしか見られない。
「何だろう?」
小橋が呟く。
「何だろうな?」
杉浦が呟く。
傾きかけた陽を背に受けて、彼らの影が伸びる。それを目で追って、会話は一旦、途切れた。
二人の中に、疑問を残したままに。
「何だ、おまえ達か」
道場の入り口に姿を見せたのは、森野だった。合宿三日目の早朝のことである。自主練習の為、一時間ほど前から行射していた杉浦と小橋は、小休止のために控えに座ったところだったが、思わぬ彼の出現に腰が浮いた。
「こんな早くから自主練って、真面目だなぁ」