放課後シリーズ
買出し係の杉浦と小橋は一年生を引き連れ、スーパーの袋を一つずつ手にして並んで歩いていた。
「おまえ、気づいてた?」
小橋の目的語も何もない、質問と言うには不完全なそれに、
「主将はどこでサボってても、上芝先輩が引いてると現れるってことか?」
と杉浦はあっさり答えた。実は小橋の意図した答えではない。ただ即答だった上に、全く関連ないことでもなかったので、小橋はそれを受けて続ける。
「やっぱり、そうなの? …じゃあさ、上芝先輩は森野先輩が来たら、引くの止めるってことは?」
「いや、それは知らない。そうなのか?」
「多分、そうじゃないかなって思う。今日、並んで引いてただろ? あれ見て思ったんだけど」
小橋の言葉に杉浦は道場でのことを思い返した。
「今日、上芝先輩、何射だっけ?」
「五十二」
五十二射なら上芝の連射にしては多い方だから、ちょうど止め時だったんじゃないだろうか…と杉浦は言おうとして、「待てよ」とまた考える。
――そう言えば、上芝先輩が連射するのって、いつも森野先輩のサボってる時だな
上芝が連射を始めると、それまで雲隠れしていた森野がどこからともなく現れて、横に並んで引き始めるのだ。上芝はしばらく、付き合い程度に引いて、すぐに場を離れた。それが「上芝は気まぐれでマイペース」の由縁の一つとなっているが、本当に気まぐれで手を止めているのだろうか?
「言われてみれば」
杉浦は小橋を見る。彼が頷いた。
彼らが森野皓と上芝知己の『見張り番』となって約一年。当初はずい分と手古摺った。杉浦は森野の姿を探すだけで精一杯。やっと見つけたはいいが、今度は一所に縛り付けておくのに苦心した。小橋は上芝のペースを掴めなくて右往左往。いつが消え時、現われ時かわからなくて、それこそ張り付いていることしか出来なかった。
それがいつの頃からか、あの二人には奇妙な法則があることに気づく。
森野は上芝が弓道場に居る時――あるいは居ると知った時、必ず姿を現した。「居る」だけでは効力がなく、行射していることが絶対条件だ。
上芝はと言えば反対に、森野が弓道場に居ない時に限って連射を行った。淡々としながらも集中力は途切れない。ただ、森野が隣で引き始めると途端に散漫となり、行射を止めてふらふらと道場を出て行くのだった。