放課後シリーズ
杉浦は裏庭の楠木の根元に投げ出された足を見つけた。予想通りで複雑な気持ちだ。一度で見つけるにこしたことはないのだが、行動パターンを読めるのは、何度もこうしたことを繰り返しているからに他ならない。
「先輩、OB達が来てます。戻ってください」
森野皓は目の上に置いた腕を少しずらした。「OB?」と言った後、森野兄も来ているのかと確認した。
「来てます」
「うるさいから、行方知れずにしとけよ」
「俺が叱られます」
森野は「ふーん」と返事とも伸びによるともわからない声を発して、あお向けの身体を横向けにした。白い弓道衣はあちこちに下草の緑が移って、すっかりしわくちゃだ。『弓道衣は常に清潔にして、皺や乱れのないように気をつけること』と言う基本は、端から無視されている。
とにかく戻ってくれと、念押しして立ち去ろうとすると、
「上芝はぁ?」
とふにゃふにゃした声が杉浦の背中を呼び止めた。
「上芝先輩は道場にいますよ。ちゃんと一年に模範を示してます」
嘘じゃない。一年生の前で練習していることには変わりはない。指導しているかどうかは別として、たとえ本人の意図するところではないにしろ、その射を後輩に見せているのだから。極悪コンビの片割れとは言え、まだしも上芝知己の方が杉浦にはマシに思えた。
「嘘つけ。あいつが一年の練習を見るもんか」
さすがに片割れ、よく知っている。
「だから、模範を示してるって言いました。それでも新入部員には充分なんです。親睦合宿なんですから」
GWの間、こうして合宿しているのだって、四月に入った新入部員に弓道のいろはを教えることと、手っ取り早く親睦を深めることが目的だった。率先してそれに従事すべき主将がこれでは、嫌味の一つも二つも三つも言いたくなろうってものだ。
「わかった、わかった。後で行くってば」
真実味に欠ける言葉を、おざなりに返す森野をねめつけて、杉浦はさっさとその場を離れた。
副将・上芝知己の射は基本に忠実で、一年生の模範としては最高の射である。
物見から打ち起こし、引き分けまでの動作には、無駄な動きが入り込む余地がない。一年生は彼の射法八節に釘付けだった――腹が立つほど美しく、控えに座る小橋もまた、一年生と変らぬ視線でその射の行方を見つづけた。
――まったく。射だけは最高なんだ、射だけは。副将にしろ、主将にしろ