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フェリオス年代記996

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イヴァンが見るにベルティーナは小脇に槍を構えシスターに槍を突き刺してしまう気満々のように見える。いや放っておけば突き刺すのはまず間違いない。先ほどのシスターの動きをみればよけられてしまいそうではあるが、もし刺さってしまえば大問題である。教会の人間をを拘束するくらいはまあなんということもないが、槍で突き刺してしまうとなればいくらベルティーナが子爵であろうと伯爵家の跡継ぎであろうともはやうやむやには出来ない。宮廷にもオルシュティン教の熱心な信者はいくらでもいるのだ。
「ちょっとまってくれ」
「・・・イヴァン、とめる気ならやめておいてくださらないかしら。彼女は歩兵二人を戦闘不能にしたのよ。拘束出来ないなら殺るしかないじゃない」
「だからまてって、もう一つ選択肢があるだろ!」
「あんたまさか・・・」
「連れて行こう。さっきの動き見たろ、足手まといにはならないはずだ」
「あんな動きしたから余計あやしいっていってるのよ!!」
「なにかあれば俺が責任を取る!!」とイヴァンが言うと二人はにらみ合う形になったが、すぐにベルティーナが視線をそらし頬を紅く染め、肩の力を抜いて槍の穂先をさげた。
「まったく・・・殿方というのは綺麗な女性とみればすぐにあまやかして・・・ミケーレはいつもあんなだからまだしもあなたまで・・・」自分もさんざんちやほやされておきながらベルティーナは言ってのける。
「ば、ばかっ、ちがうって、俺はそんな気持ちなんてまったくなくて・・・」
ちょうどそのときシスターの足元で転がっていた二人の歩兵が「いてて」と、殴られたところをおさえながら立ち上がる。
「無事のようね、あなたたちは一応ヴェネリオに診てもらいなさい」と言われると歩兵達は敬礼しふらふらと歩いて行く。
「それとあなた、特別についてくるのを許可します。でも何かあっても命の保障はできないわ。いいわね?」
シスターはそれを聞くと剣を握ったまま胸の前で手を組むと「感謝します」と礼を述べる。 「お礼ならイヴァンに言うことね。あなたが何かしでかしたら責任をとるのはこの人なんだから」 「イヴァン様に感謝を」 イヴァンは頭をかきながら「ああ」と返事を返したものの、面倒なことにならなければいいがなあと心の中で思った。



イヴァン達、ベルティーナ、シスタールイーザと歩兵科の4人は石造りの修道院の前に到着していた。
門の中に入ると数人の修道士達が血まみれで倒れており、中には剣を手に持ち激しく抵抗した様子の死体もある。
やはり急に襲われたらしくよろいなどを身に付けているものは皆無だった。
「これで騎士団が犯人って言う線はなくなったわね」 と辺りを見回しながらベルティーナは言った。
「てことはだ、犯人は騎士団の連中よりもやっかいってことだよな」
イヴァンが周囲を警戒しながら恐ろしい事をつぶやくとそこまで二人の会話を聞いたルイーザが口をはさんできた。
「でも完全武装の騎士であればこんなに一方的にはやられてはいないと思います。わたしがもっと早く到着できていればこんなことは・・・」ふせげたはず、とでもいいたげにルイーザは表情を曇らせる。
「それで、これは死神がやったとでも言うの?あきらかに剣で、それも考えられないほどの力の持ち主が切ったような傷なのに?」
 「お話にでてくるような死神を想像してもらっては困ります。死神も私と同じように肉体と、あなた方にかかったのろいを開放する力を持っているんです。そして彼にのろいを解いてもらった者は彼の意のままに動く人形となり、死した後も永遠に、勝敗がつくまで私達と戦う運命を背負うのです」
「ふ〜ん、それがほんとうだとしてのろいってなに?」
ちょうどそのときであった。修道院の建物の中からドアが蹴り開けられ、血に染まった剣を握りあごひげを生やした目付きの悪い長身の男が現れる。そしてその後ろにはボロボロの剣を握った血まみれの2人の剣士が続いていた。
「はーいはいはいおしゃべりはそこまでー。せっかく来たんだ早速おじさんがもてなしてやろう!早くしないとこいつらがお前らと遊ぶ時間がなくなるんでな」と自らの後ろに居並ぶ血まみれの2人を親指で指し示しながらはき捨てるように言い放つと、イヴァン達は無言で武器を構える。
長身の男はルイーザを見ると何か気が付いたような顔をして笑みを浮かべた。 「ヴァルキュリアのおじょうちゃんだな?はじめまして、と、さようならだ!まだ独りモンみたいだが死んでも俺をうらむなよ・・・っと」長身の男は剣を手にすさまじい速さで距離をつめてくる。
「リーパ(死神)よ!冥界にかえりなさい!」ルイーザはすばやくイヴァン達の前に立ちふさがり死神が振りおろした剣を弾き飛ばす。彼女達の力強くすばやい剣さばきに圧倒されていたイヴァン達であったが長身の男の後ろから走りよってきている二人の剣士に気がつく。
「応戦!」ベルティーナは応戦の指示をだし、剣を手に剣士の一人に走りよる。イヴァンはベルティーナのそばにいたので後に続き、歩兵4人はもう一人の剣士に向かって行く。
血まみれの剣士は手ごわいなんてものではなかった。剣士の剣を受けると受け手の剣が弾かれてしまい、まともに剣をあわせることも出来ない。
そしてその動きもすばやく、ベルティーナの突きを難なくかわし少し遅れて振り下ろしたイヴァンの剣も小うるさげに剣で払いのける。剣士は突き、なぎ払い、振り下ろし、とベルティーナとイヴァンの二人を相手に暴風の勢いで攻撃してくるのだ。敵一人に対しこちらは二人で防戦一方とはまさにありえない話である。歩兵科たちのほうを見るとなんとか取り囲み優位に戦っているようだ。
「ぐはっ!」
ちらりと歩兵科たちに目をやった隙をつかれて蹴りを受けてしまったイヴァンは後方に倒れこんでしまった。
そこへ剣士がとどめの一撃を放つために大きく上段に振りかぶる。
その隙を見逃さず背後にいたベルティーナが突きを放ち剣士の胸から剣の切っ先が飛び出し勝った。とおもった次の瞬間、何事もなかったかのように剣士はその振りかぶった剣を振り下ろしてきた。
ありえねえ!くそったれが!こんなところで俺は!!
ガキン!!
イヴァンは自分の手にある剣で相手の攻撃をはじいていた。
「弾き返せた?」イヴァンは圧倒的な腕力を誇る剣士の剣をなんとも軽く弾き返せたような気がしたが、 今は考えるよりもまず起き上がるのを優先させるべきと相手の態勢が崩れているうちに跳ね起きる。
剣士と向き合うとベルティーナの剣が背に突き刺されていながらまだ立っていた。
ベルティーナのほうはと見ると剣が引き抜けなかったのか距離をとり予備に持っていた短剣を引き抜きながら信じられないといった面持ちで剣士を見ており、剣士は剣をうしなったベルティーナのほうを見ると狙いを定めるように距離を詰めていく。
短剣なんかじゃ絶対に防ぎきれない!イヴァンは後ろから胴をなぎ払う、傷は深い、しかし剣士の動きはとまらない。
ベルティーナも覚悟を決め短剣を構える。
「イヴァンわたしは!・・・」
剣士は身をかがませ突きの姿勢をとる。あと一瞬でベルティーナは剣士の突きの間合いに入るだろう。