フェリオス年代記996
イヴァン達が先頭部隊を少しはなれたところから眺めていると、ベルティーナ達は偵察が戻ってくるのを待って前進をはじめた。
ベルティーナ達はゆっくりと警戒しながら進み、イヴァン達もつかずはなれずについて行く。
先頭部隊が村の入り口に到達すると少し躊躇したのかしばらくは様子を伺っているようだったが、意を決したのか 先頭部隊がするすると村の中に進入して行く。 イヴァン達も周囲を警戒しながらゆっくりと村に向かっていたが、結局何事もなく村についていた。
村には死体がごろごろと転がっており、女生徒の隊員は時折小さな悲鳴などを上げたりしている。
すでに歩兵科の面々が家々を調査をして回っているようで、その村の中心にベルティーナとジルベルト、ミケーレの三人が色々な指示をだしながらイヴァン達を待っていた。
ベルティーナたちから10歩ほど離れたところにたどり着くとイヴァンはオフェーリアに指示をだす。
「オフェーリアちゃん。隊はとりあえずここで待機」
「えっ、あっ、はっはい!」
オフェーリアはあわてながらそう言うと荷馬車の皆にあたふたと停止の手振りをして待機を命じ、 一連の命令が皆に伝わるのを確認してからイヴァンとオフェーリアはベルティーナ達の元に行く。
イヴァンはベルティーナに向かって苦笑を浮かべてからベルティーナにだけ聞こえるように囁いた。 「もうはっきり言って、帰ってしまいたいな」
「私も同感よ。今、皆に生存者を探させてるわ」
「そっか…」
「あと、オフェーリアちゃん、あなたも一緒にヴェネリオと薬学科達とで死体を調べて頂戴、いつごろ殺されたか知りたいの。まあそんなに日にちは経ってないみたいだけどね」
「はいっ!」
オフェーリアはそう返事をするとヴェネリオの元に向かって行った。
「しかしこの惨状は俺達の手に余るな」
「いまちょうどそれを話してたのよ」
「それについてはやはり今日の目的地だったノーラ村の地域警備隊砦に連絡し対応を任せるしかないと思います」 とジルベルト君が発言する。
「そうだなそれしかないな」
「よし、じゃあ決定ね。ミケーレ!」 ベルティーナはミケーレに向かってまた先ほどのように手で【行け】と指示する。
「え、行けってあのー、まさかですけどノーラ村?」
「他にどこにいけっていうのよ!さっさといく!」
「マジで?もう暗くなるのに?こんな惨状みたあとなのに!?超怖いんですけど・・・」
「あなたの選択肢はさっさと行くか、ここでわたくしをおこらせてぶった切られるか2つに一つよ!!」
ベルティーナはそう言って腰の剣をかちゃりと鳴らせる。
「わ、わかったよ、ったく。イヴァン、シスターには手だすなよ!」
「だすかよ!」 イヴァンが苦笑いでそう返すとミケーレは馬に鞭を入れ一気に今来た道を駆け戻って行く。
「さてと、あと問題は二つよ。今日休む場所の確保と、あの向こうの丘にある修道院の中身の確認ね」
とベルティーナは西の丘に見える修道院の方を指差し、ジルベルト君とイヴァンはごくりとのどを鳴らす。
騎士団を名乗る者達の、ほぼ領地であるに等しいこの村の惨状を彼らが見逃すはずはない。
なのに修道士や武装した騎士らしき死体は転がっていない。
ということは、彼らが真っ先に襲われたか、それとも彼らがやったのか。しかし見たところ人の気配はなさそうだ。
どちらにせよ建物の内部を見に行かなければならない。もしかしたら生存者達が避難しているかも知れないし、こちらを襲う敵がいるのかもしれない。そしてやはりまだ明るいうちに調べられるものは調べておきたかった。
「ジウベルト君はそこの大きい家に工兵科をつれていって皆が休めるようにして頂戴。現場は保存しなくちゃいけないけどそこの死体は運び出していいわ。その指示を終えたらすぐにここに戻ってきて、しばらくあなたに小隊の指揮を任せるわ」
「アイアイマム」と敬礼するとジルベルト君はすぐそばで待機している工兵科の元に走って行く。
「さて、わたくしとイヴァンは4人ほど歩兵科をつれて一緒にあそこの調査に行きましょうか」
「了解」
「わたしも同行いたします」
イヴァンとベルティーナが声のした方をみると、 いつの間に来たのかシスタールイーザがその美しい顔に凛とした表情を浮かべ、側に立っていた。
フードを取り、腰まである金髪が風に舞っており、その手には鞘に収まった剣を握っていた。その姿はオルシュティン教会やアイシア正教会で教える戦女神を思わず連想させる。
「あなたは何者なんですの?」
普段であれば平民は引っ込んでいなさい!!とか言うのだと思うが、さすがのベルティーナもルイーザの只者ではない雰囲気に飲まれている。
「フォッジアスオルシュティン教会神学校女子部所属の学生です」
ベルティーナとイヴァンはあっけにとられた。イヴァン達の通う王立兵学校とすぐ近くにあるお金持ちや貴族の娘しか通えないお嬢様学校である。もちろん男子部もあるが双方とも学習期間は12年、6歳から18歳まで寮で生活し、その後は聖職者として働くのだ。6歳の時点で家族との絆は断ち切られ、その未来はすでに確定されている。高い身分の子女が多いのは色々な理由があってのこと。学習内容も多岐にわたるが戦闘訓練などは行っていないはずだ。
「えーと、そこの学生さんがここに何しに来たんですの?」
「私はルパート村がこんな状態にならないように守るため来たんです。残念ながら間に合わなかったようですが・・・」
「ちょっと意味がわからないんだけど・・・この村を何から守るの?」
「わたしたちがリーパと呼ぶもの、あなたがたは死神と呼んでいるものからです」
それを聞いたベルティーナはあきれたように髪の毛をぐしゃぐしゃっといじると側にいる歩兵に命じる。
「彼女を拘束してどこかの家に閉じ込めて。わたしたちが戻るまで見張っていてくださるかしら」ベルティーナはもう相手にする必要を感じていないようだった。
二人の歩兵がシスターに近づいて行く。
確かに言うことがもうあやしすぎる・・・とイヴァンも思っていたので黙って様子を見ていた。
「言っておきますが、私がついていかなければあなたたちは無事にはすみませんよ。あの中(修道院の中)にはリーパがいます」と言ってルイーザは修道院を指差した
歩兵達はそれを聞いて一応という感じでベルティーナのほうを見るがベルティーナはさっさとしろとばかりに手を振る。
歩兵がシスターの両脇から腕をつかもうとした刹那、シスターはすさまじいスピードで二人の歩兵を鞘のついたままの剣で急所に突きを入れ無力化し、二人の兵士はその場に倒れこんだ。
それを目の当たりにしたベルティーナは低い声音で 「あなた、いい度胸してるわね」と言い放ち、ベルティーナはその表情に妖艶な笑みをうかべながら馬具に取り付けてある槍差しから戦槍を引き抜きルイーザにその切っ先を向ける。
「まさかとは思うけど兵士を傷つけて無事でいられるとは思っていないわよね?」
作品名:フェリオス年代記996 作家名:siroinutan