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フェリオス年代記996

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「ふー」 すっきりしたー!と続いてもおかしくは無い様子で作業を終え、ベルティーナは一息つくといい汗をかいたようで額を右手でぬぐう。 が、気がついてみると、半径20メートルほどの空間はお通夜のような空気が漂っており、4人の男達に同情的な視線が集まると、ベルティーナはちょっとやりすぎたかなと弁明を始める。
「な、なにようあんたたち、非難するような目でみないでよ!彼らだって納得済みのことでしょ!!」
「しかしベルティーナ、番号言わせてその番号と同じだけ殴るって・・・どうなんだ?」
イヴァンがそう言うとベルティーナは一歩後ずさり、周囲を見回すとみんなもベルティーナを非難する視線を送っていた。ベルティーナが追い詰められていた・・・、そのときであった!地面に転がっていた一人の歩兵が歯を食いしばりながら立ち上がりこう言った。
「5!」
みんなの目が点になる中、それを聞いた他の3人も立ち上がり口々に6とか7とか1とか唱えながら身構える。
その光景を見ながら皆は悟ったのだ、彼らは隠れ信者であると。裏では初見殺しのS魔神などとよびつつも密かに魔神を敬い、信仰している一派が存在するのである。彼らはベルティーナの鉄拳にすら感謝し、感動する。ベルティーナに殴られる行為は魔神の祝福とも一部では囁かれており、周囲の皆も、なんだ信者だったのかよとあきれているようだ。
その中で一人、ベルティーナはしまった・・・という表情をしていた。彼らにはベルティーナが物理的に罰を与えることは出来ない。逆に喜ばせてしまうのだ。現場におかしな空気が漂いだした中イヴァンがやれやれとベルティーナと歩兵達の間に割ってはいる。
「先輩方、もう結構ですので下がって休んでください。いいですよねベルティーナ隊長」
最初に歩兵、のちにベルティーナのほうを見ながらイヴァンは言うと、 ベルティーナの方も気を取り直し「まあ、それでもいいわね」と返すが、それに対する歩兵達の言い分はこうであった。
「なんの、まだまだこんな物で償える不始末ではありますまい!!」 とか
「やさしくしてください!!」
「○○○○○」などと興奮しながら口々に言い出す始末。
どうやらベルティーナは変なスイッチを入れてしまったようで、 収拾がつかなくなってきつつある。
そこへすかさずジウベルト君の登場である。「先輩方には今回は休息なしで、罰として隊の周囲を休息終了までランニングしてもらうって言うのはいかがでしょう?」と笑顔でベルティーナに提案するとベルティーナは口元に人差し指をあてて言った「おー、それいいじゃない。じゃあジウベルト君にすべて任せるからつれてって頂戴。それとこれから1時間ほど休息とるからついでに皆に伝えておいてくれる?」
「アイアイマム」そう言うとジウベルト君は敬礼し、急に殴られたところを痛み出した4人の歩兵達を「さあいきますよ〜」と引き連れて歩き去る。

「ジウベルト君はさすがに手際がいいな」
「ええ、たすかるわ」
イヴァンらはジウベルト君達を見送ったあと、ジウベルト君を除いた騎兵の4人で今後の予定を打ち合わせた。
まず「これからどうする?」とミケーレが口火を切る。
「そうね・・・、暗くなる前に次の目的地までたどり着くのは無理でしょうから、今日のところはやっぱりジウベルト君の言ってたルパート村?で休ませてもらった方がいいと思うんだけど、皆はどう思う?」
ベルティーナは皆を見回し問いかける。
「それがいいだろうなー」 「賛成」 とイヴァン、ミケーレはそれに賛成し、3人の視線は残った一人に注がれた。
注目された人物はあわてた様子でフードを下ろすと眼鏡を掛けた黒髪の少女の素顔が現れ、あたふたした様子でしゃべり始める。 「あ、あのっ、ルパート村にはっ、少しあの、その、問題があって・・・」
そこまでは聞き取れたがだんだん声が小さくなって聞き取れなくなっていく。彼女は極度のあがり症で急に意見を求めたり、皆で注目するとすぐこうなってしまうのだ。ジウベルト君と同じ戦術科の1年だが、これで大丈夫なのか?といつも思ってしまう。
イヴァン、ミケーレはやれやれと顔を見合わせるがベルティーナはやさしく聞きなおす。
「オフェーリアちゃん、あわてなくていいのよ、ゆっくり落ち着いてはなしてくれる?」
ハフッ、ハフッ、はい、はい、と何度もうなずきながらオフェーリアはポニーテールを揺らしながらなんとか落ち着こうとしている。
イヴァン、ミケーレ、ベルティーナは様子を見ていた。がそこでベルティーナの攻撃!とベルティーナはいきたいだろうなーとイヴァンは思いながら、ベルティーナをちらりとみたが意外と穏やかな表情で待っている。彼女はオフェーリアちゃんのことを結構気に入っているようだ。
そんなことを考えてるうちにオフェーリアちゃんはというと少し落ち着いたようで、ゆっくりと話し出した。
「はふー、失礼しました、ジルベルトさんのおっしゃった通りあの町はオルシュティン教徒だけが住む村で、そこは問題ないんですけど、問題はすぐそばにオルシュティン教会の修道院がありまして、確か正式な名は【聖者オルシュティンとフォッジアスの民の仲間】だったかな?数は十数人程ですが、れっきとしたフォッジアス人の騎士修道会として登録されてまして、彼らはフォッジアス聖堂騎士団と自らを呼称しています」
そこまで話すとオフェーリアは胸に両手をあて深く深呼吸をしたあと皆の反応をまっている。
修道騎士団はもともとある程度身分ある者の次男や三男など、元来王国の騎士の身分を与えられるほどの地位にある者も多く在籍し、その戦闘力も王国の正規の騎士と比べても遜色は無い。
さらに宗教的問題が戦闘の理由として加われば比類ない戦闘力を発揮する。普段は敬虔なオルシュティン修道士ではあるのだが、一旦何事かがおこると強力な戦士となり見える範囲のすべての敵を葬るまで戦いをやめない・・・。もし、小隊のだれかが彼らと揉めた結果、戦闘に発展した場合、彼らが20人ほどもいれば学生だけで構成された隊などあっという間に皆殺しにされてしまうだろう。
そしてもう一つ、フォッジアスにあるオルシュティン教会はフォッジアス王の権威を最上のものと認めているのだが(国内の司教の任命権はフォッジアス王にある。)、彼ら騎士修道会は元々西方および北方異教徒を討伐するためにオルシュティン教王の呼びかけにこたえて各地で設立された経緯がある。つまりフォッジアスの女王の権威よりも(それなりに敬意ははらうが)、当然のようにオルシュティン教国の教王の権威をより尊重している為、何か事が起こってもフォッジアスの王権では制御出来なくなるのである。
とても学生が対応できるような相手ではない。
「修道騎士団の騎士様かあ・・・」 とミケーレが考えこむようにつぶやく。
「確かにあまりかかわりたくは無いな」
「ジウベルト君は知らなかったのかしら?」
オフェーリアはそれを聞くとしどろもどろでこたえた。
「あっ、あのっ、それは知らないと思いますっ。たまたま私の父がルパート村に仕事で立ち寄ったときにそこの騎士団の騎士様と揉めて大変だったという話を聞いてましたのでっ、偶然知ってただけなんですっ。ごめんなさいっ」