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フェリオス年代記996

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それを聞いたベルティーナは悪そうな笑いを収め、瞬時に豹変し冷めた瞳と表情ででイヴァンを見つめながら言った。
「あなたの紋章は何?」
それを聞かれたイヴァンはがっくりと肩を落とす。
「ば、ばら…?」
「ほら、わたくしの言った事とどこが違うの?髪飾りもイヴァンの紋章も薔薇でしょう?」
「…はい」
「さあさ、帰りますわよ!」とにこやかに告げるとベルティーナは力の抜けたイヴァンの腕をつかみ城門の方へうきうきと歩いていく。
そしてそれを離れた場所から見つめる二人の男がいた。一人はあごひげを生やした目付きの悪い長身の男。もう一人はフードを深く被った小柄の男。
 「ほお、あのガキどもここらのやつらだったのか…」
「ルパート村の?」
「あたりだ、ってか話したばかりだったな。」
「やるか?」
「いや、まずは本命のお嬢ちゃんが先だ」
「ふん」
「俺はまず好物から食う主義なんでね」
「ふむ、まあいいだろう」
長身の男はそこまで話すとこちらを見ていないイヴァンに優雅に会釈した。 「近いうちにまた会おうぜ、くそガキども」




昨日いやな目にあったイヴァンはなかなか寝付けなかった為、今朝はいつもよりも少し遅い目覚めだった。
現役騎士や戦略科は個室があてがわれる為、誰かが起こしてくれるわけでもなくごそごそと起き出して顔を洗う。
残念ながら朝食をとりに食堂に行くと遅刻確定のため、そのまま制服に着替えて部屋を出る。
男子寮は2F女子寮は3F学校施設は1Fに配置されているので中央階段に向って歩いていき、階段にたどり着くとちょうど3Fから降りてきた人物と鉢合わせた。
その人物はジュリアマリア=ダ=ベネディクティス、通称ベネ先生で戦略と戦術の教師で女親衛隊騎士だ。
宮廷序列で言えば騎士であるイヴァンの一つ上の序列になる。黒髪を後ろで束ね、めがねが特徴的な先生である。
「あ、おはようございます。」
とイヴァンがあいさつするとベネ先生が鋭い視線を投げかけてくる。
「おはよう。今日は遅いな?」
「昨日ちょっといろいろありまして、よく寝付けなかったというか…」
それを聞くとベネ先生は頷いて 「ふむ、奇遇だな?わたしもだ。」
「?…ベネディクティス先生も何かあったんですか?」
と、イヴァンが何気なく聞こうとしたが、ベネ先生は軽く手を振って
「まあ今の所は気にしなくてよい。」
とそっけなく返事を返し、そのあと何か思いついたような顔でさらに語を重ねた。
「でもちょうどよかったな」
「はい?」
「今日、校長含め私以外の教師は王都に行っているので今日は教室で自習だ。ラッキーだったな、教室に行ったら他の者にも伝えておいてくれ」
「おおーっ、了解しました!」
そこまで話を聞くとイヴァンは敬礼をし、足取り軽く階段を駆け下りていく。
ベネ先生はそれを見送るとメガネの位置を直しながらつぶやいた。
「自習で終わっちゃえばいいんだけどね〜。」


戦略科と騎士科は学年で同じ教室を使う。午後の科目がほんの少し違うだけでほとんど同じ事を学習するためだ。
イヴァンが「おはよう!」の掛け声で教室に入るとミケーレとベルティーナがすでにいた。
というか今のところ騎士科と戦略科をあわせても3人しか居ない。
行軍演習は全校生徒を10個小隊と1個の騎士隊、1個の司令部に分けて行なっており、騎士科や戦略科、戦術科はそのほとんどが司令部付きか騎士隊に所属するので、一個小隊に所属する騎士はミケーレとイヴァン、戦略科は隊長としてベルティーナがいるのみ。といった事情で一番先に学校に帰り着いたイヴァン達は教室をゆったりと使えるのだ。補足すれば医学科はほとんど、薬学科もほぼ半分が司令部付きなので両兵科もゆったりと教室を使っている事だろう。現に医学科のヴェネリオは現在、教室に一人で孤独に過ごしている。
「おっす」
「おはようイヴァン」
「今日朝飯食いにこなかったな?」
「ああ、ちょっと寝坊しちまったよ。」
「めずらしいな?」
「まあ、たまにはな」
とそこまで話した所でベルティーナの方を確認すると、その頭上にはやはり薔薇の髪飾りを装備していた。
まずい、危険、デンジャーなど様々な単語がイヴァンの頭をよぎる。当のベルティーナの方はというと、どこ吹く風と涼しい顔でイヴァンのほうを見ていた。
そこでイヴァンは気にしすぎるのもよくないと思い直し、先ほどベネ先生に頼まれた伝言を伝える。
「今日は最高の日かもな」とミケーレが言い。
「最低の日かもしれませんわよ」とベルティーナが言った。
それを聞いたイヴァンは思わず、はぁ、とため息を一つく。
だが、イヴァンの予想に反して何事もおこらず昼食の時間となり、 イヴァン達3人は食堂に行くと昼食を受け取り窓のそばに陣取った。
なにげない会話をしているとジウベルト君とオフェーリアちゃんがやってきて
「先輩方、食事をご一緒してもいいですか?僕達戦術科、二人だけしか居なくて…」
とジウベルト君が声をかけて来た。オフェーリアちゃんはジウベルト君の後ろでもじもじと何かいいたそうにしている。
「ええどうぞ。一緒に食べた方が食事もおいしいですからね」
とベルティーナが二人に席を勧めると、二人はうれしそうに席に着いた。
その五人で会話を楽しんでいると、もじもじしているオフェーリアちゃんに気づいたベルティーナが優しく声をかけた。
「オフェーリアちゃんどうしたの?」
「あ、あのっ、今日、せ、先輩、とても綺麗です!そのっ、いつもきれいなんですけどっ」
そこまでいうとベルティーナはオフェーリアが落ち着くようにと背中に手を置きとんとんと優しく叩く。
「落ち着いてオフェーリアちゃん。誰も怒らないからゆっくり深呼吸して。」
何回か深呼吸した後完全に呼吸を整えたオフェーリアがベルティーナにお礼を言うと
「先輩の髪飾り、すごく似合っててきれいです!」と目を輝かせながら言った。
その時のイヴァンはというと、内心ひやひやしながらもなんとか感心のない風を装うことに成功していた。
「ありがとオフェーリアちゃん。ふふん〜いいでしょこれ」
「はい!髪飾りすごく細かく作りこまれてて!!銀の薔薇と先輩のきれいな赤髪にすごく似合ってて素敵です〜」
「俺も今日は結構凝った髪飾りしてるなーって思ってたんだよ。」
とイヴァンの隣のミケーレも話題に加わると、ベルティーナはすかさず腕を組み
「ミケーレさんの言葉はなんだか適当っぽくて信じられませんわ」
ふん、とばかりにそっけなく答える。
「ほんとだってベルティーナ〜」
しゅんとなるミケーレを見てアハハとみんなで笑う中、イヴァンは引きつった笑みを浮かべ冷や汗を流していた。
一年坊がやってくれたなと思いながらも、とりあえず核心部分からはまだまだ十分距離があるので様子を見る事にした。
そのときジウベルト君がふむふむと何度か頷いて控えめに手を上げた。
「ジウベルトどうしたんだ」とすかさずミケーレが聞くと、ジウベルト君は何か思いついた様子で話し始めた。
「あまり聞いてはいけないことかなと思ったんですが…」と前置きして