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フェリオス年代記996

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「あたりまえですわ。わたくしはお約束をやぶったことはありませんの」なぜかぷいっと横を向きながらベルティーナは答えた。
「ありがとう!ありがとうベルティーナ。いやーうち貧乏だからどうしようかとほんとこまっちゃってたんだ。 」
イヴァンはベルティーナの両肩をつかみながらうれしそうに感謝の意を伝えるとそのままの体勢でそのまましゃべり続ける。
「じゃあさ、学校おわったら少し二人で馬を走らせにいかないか?」
ベルティーナは頬をあからめ仕方なさそうな表情をしながら言った。
「し、仕方ありませんわね、ふ、二人でですわよね?」
「ああ!、いやまてよ、ミケーレも誘おうか?競争とかもしたいし」
それを聞いた瞬間ベルティーナはイヴァンの両手をうざったそうに、ぶん!!と払いのけ、くるりときびすを返しすたすたと職員室に入っていく。
「お、おい」
イヴァンは急に機嫌を悪くしたベルティーナに驚き唖然としたが、まあ、いつものことだと頭を切り替えて職員室に入っていった。


オルシュティン教会神学校

フォッジアス兵学校は王都から数キロ離れた丘の上に建てられた使われなくなった石造りの城で、生徒の寮や教室もすべて城内にある。の門を開け、3騎の騎兵が王都に向かって走り出す。
一人はデルネーリ先生で黄地に黒で猫の顔のシルエットというかわいいマントをゆらゆら揺らす偉丈夫で、その後ろにベルティーナとイヴァンが続いていた。
「ためし乗りする手間が省けましたわね」
「すごいなこの馬…」
思わずイヴァンが嘆息とともにつぶやくとベルティーナはふふんと満足げに説明する。
「あたりまえですわよ、その馬はレギオン帝国全体を見ても名馬の範囲に入りますわ。スピードはわたくしの愛馬とそう変わらないけれどパワーとスタミナは比べ物になりませんわ」
イヴァンのもらった馬は黒毛でフォッジアス産の馬と大きさはあまり変わらないが手足が圧倒的に太かった。
過去に見たことのあるレギオン産の馬は一回り小さく力強くはあったがスピードはフォッジアス産に劣っていたようにも思えたが、 この馬は早く力強い。たとえばベルティーナの馬と比べても遜色の無い反応速度と操縦性、まだ試していないが拍車をかけたときどのくらいのスピードが出るのか想像も出来ない。
「元々お父様がレギオン帝国に出向いたときに皇帝から直々に下賜された馬なんだからちょっとすごいですわよ?」
「ぶはっ」 それを聞いたイヴァンは思わず噴出した。
「な、な、ま、マジで?」
「こんなことでうそついてどうしますの?」
とそっけなく答えるベルティーナ。
「う、う〜ん。フォルテ伯はご存知なんだよね?」
「知りませんわよ。だって、お父上は領地にいるんですもの」
「ちょっと!こ、これ返して来い!」
イヴァンは急いで対処しなければお家の危機とばかりに馬の背を軽くたたきながら懇願すると、ベルティーナはあきれたような表情で答えた。
「王都のお屋敷はわたくしが管理していますので問題ありませんわ。第一、その馬誰も乗れませんでしたもの」
「え…」
「わが伯爵家でもっとも乗馬が得意なものを集めて試したのですが誰一人その背に跨るのさえ不可能で、父上も処分するわけにもいかず困っておりましたの。だからイヴァンで試してみようかな〜と思ったら普通に乗れたのでわたくし、今びっくりしておりましたの」
イヴァンは話の後半から唖然とした表情で聞いていたがふとあることに気づいて眉をしかめた。
「おまえ…そんな危険な馬を俺に乗せたっていうの?」
わなわなと肩をふるわせながらベルティーナに馬を寄せる。
「いいじゃありませんの。乗れたんだし。イヴァン卿はさすがですわね」
ニコッとフォッジアス最高の笑顔を向けられイヴァンは流石に顔を赤らめたがベルティーナはすぐ普段の表情に戻り、
ひとつ忠告しておきますと前置きした上で言った。
「ただ、拍車を掛けるとどうなるかはわかりませんわよ?もともとすんごい暴れ馬ですので」
それだけ言うと本当に楽しそうにベルティーナはアハハと笑う。
本当にベルティーナは俺をいじるのが楽しいんだなーとイヴァンは少ししょんぼりし、暗い表情で馬のたてがみをなでる。
「あ、そういえば名前、この馬の名前はなんて言うんだ?」
「フリューゲルですわ」
「フリューゲル…そっかフリューゲル…」
そういって馬のたてがみをやさしくなでるイヴァンに今度はやわらかい表情と顔でベルティーナは尋ねた。
「イヴァン、彼は愛馬を無くした悲しみを癒してくれそうかしら?」
そう言われるとイヴァンは少し考え込むしぐさをしたがすぐに明るい顔をしてベルティーナに告げる。
「ああ!きっと」
それを聞いたベルティーナはニコリとうなづくとその時を見計らったようにデルネーリは後ろを振り返る。
「お前ら任務中だということを忘れるなよ?教師の前でいちゃつくんじゃない!」
と今にも拳骨が飛んできそうな顔で叱り飛ばすとイヴァン達は思いっきり否定した。
「な、なにを言ってますの?わ、わたくしはイヴァンをからかっていただけですわ!いちゃつくなんて、か、勘違いも甚だしいですわ先生!」
「先生、俺とベルがいちゃつくとか絶対ありえませんから。これはもう断言できる」
そういった瞬間ベルティーナが怒ったときにする恐ろしい顔でイヴァンをにらみつけ、思わずイヴァンはひい!と声を出した。 その二人の様子を見ていたデルネーリはフッと鼻で笑い頭を掻きながら言った。
「まあいい、さて向かった先でどの位時間を使うかわからんから急ぐぞ。付いてこいよ、遅れたら訓練倍の刑な」
「わかりましたわ」
「…」
そう言ってデルネーリとベルティーナは馬速を上げていきだんだん小さくなっていく。
そしてイヴァンは思った。
「ちょっとまって…」と
イヴァンはさっきの話を聞いて絶対に拍車が馬体に触れないように内股気味で乗っていたのだがこのままだと 訓練倍の刑で死んでしまうので、おそるおそる踵の突起を優しく馬体に触れさせた。
するととてつもない加速力を発揮しみるみるベルティーナ達が近づいてくる。
「ちょ、これ、すげえっ!」
いままで見たことも無いスピードでベルティーナの隣にならぶと流石にベルティーナは驚いた顔でイヴァンとフリューゲルを眺め見る。
「ベルティーナ!ありがとう!」
そうイヴァンが声を掛けるとベルティーナは少しあっけにとられていたが気をとりなおして答えた。
「どういたしまして。ですわ」
悪い冗談のつもりでイヴァン置いてけぼり作戦を行なったデルネーリも、あまりの速さに驚いていたがあえて何も言わず ただ少し残念そうな顔をしたのみだった。


イヴァン達三人は王都の外にある厩舎に馬を預け、城門をくぐった。
目指すはフォッジアス大聖堂の付属施設、オルシュティン教会神学校女子部である。
街の中心の広場に面したところに大聖堂はあった。元々は小さな教会だったのだが少しづつ改修を重ね現在は大聖堂の名を辱めないほどの威容と景観を備えていた。