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フェリオス年代記996

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「じゃあ、ルイーザちゃんはなんでわたしにこの事話してくれたの?」
そう聞かれるとルイーザはまた言いにくそうに言葉が途切れがちにだが答える。
「わたしはあなたを、救いたい…、心の底から…、優しいあなたをとても放っては置けないんです。でも、世界には本当に優しい場所なんか無くて…わたしの言う天国は、あなたにはきっと地獄で…」
そこまで聞くとヴェロニカは満面の笑顔を浮かべた。
「やっとわかったよ。ルイーザちゃんは選んで欲しいんだよね?その為に話してくれたんだよね?じゃあ答えは決まってるよ!わたしはルイーザちゃんと一緒に行くよ!」
とヴェロニカは本当に力強く言うとルイーザは決心した様子で頷いた。
「わかりました。それでは契約内容を話します」


「これが私の手、足…」
ベッドに腰掛けた少女は自分の手と足をまじまじと見つめ、そして向かいのベッドに腰掛ける長い金髪の美しい女性に目を向ける。
「ルイーザ…ちゃん?」
わなわなとヴェロニカが声をかけると金髪の女性は無表情でコクリとうなずいた。
それをみたヴェロニカは今度は足に力をこめると難なく立ち上がることが出来たので窓に向いて歩き出す。
歩きなれてないからかよろよろとしながらも窓までたどり着くと窓を開け、空を見た。
冷たい風が部屋の中を駆け巡り体も冷えていくのを感じるが、ヴェロニカは雲を見て、それから太陽をみた。
「ルイーザちゃん、…曇ってきれいだね。…太陽ってまぶしいね!!空っておおきいね!!」
そう声を掛けられてもなおルイーザは何も返事をせず無表情にただただヴェロニカの背を見つめていた。
「やっぱり窓開けるとさむいね?」
といいながら窓を閉めると今度はよろよろとルイーザの元に歩み寄り、両手を胸の中央に持っていく。
「ありがとう。ルイーザちゃん。私はあなたに救われた。本当にありがとう。それと、お願いだから後悔なんてしないでねルイーザちゃん」
それを聞いたルイーザは急に今にも泣きそうな顔になりながらすくっと立ち上がりその胸にヴェロニカを抱いた。
「ごめんね、ごめんね…ひっく、ふえ、ふえぇぇぇん、ひっく、わあぁぁーーん、」
ルイーザはヴェロニカをぎゅっと抱きしめ泣き声をあげ、涙をぽたぽたと流しながらごめんねを繰り返す。
その泣き声を聞きながらヴェロニカはそっとやさしくこう言った。
「主神に感謝を。ルイーザちゃんに永遠に感謝を…。そんなに泣かないで、わたしはうれしいんだよ?」
ルイーザはそれを聞くとさらに悲しそうな表情をし、しばらく泣き止むことはなかった。




そのころイヴァンたちはてっきり学校に戻れば休暇だとばかり思っていたが全校内の清掃を命じられ腐っていた。
 小隊員はそれぞれ二人づつくじ引きで決まったメンバーと共に、くじ引きで決まった担当範囲を掃除していた。 「まさかこんな仕打ちを受けるとは…。てっきり休みだと思っていたのに…」
とイヴァンは机を動かしながら相方に聞こえるようにつぶやく。
「いいじゃない?行軍演習より安全だし」
クラリーチェがそっけなく返すとイヴァンはさらに語を重ねる。 「まあそうなんだけどなあ、今回の演習であんなことがあったんだから少しくらいなんかあってもいいんじゃないのかなーと、それにあしたからまた普通に訓練だぜ?勘弁してくれって思うよ」
イヴァンは思いっきりしょぼんとへこたれるとクラリーチェは手を止め、腰に手をあてて怒った様子で口を開く。
「イヴァンは騎士なんだからそんな事いわない!誰よりも強くなって皆を守るんでしょ!」
クラリーチェにそういわれるとイヴァンは手を止め少し俯いた後、クラリーチェを見つめ、言った。
「そうだったなクラリーチェ。約束したもんな」
それを聞いたクラリーチェはニコリと表情をやわらげる。
「そうそう、村の皆も期待して待ってるんだから頑張って」
 「ああ、頑張るよ。クラリーチェも助けてくれるしな」
「うんうん。私に出来ることなら何でも手伝うよ」
「ありがとうクラリーチェ」
鼻を掻きながら恥ずかしそうにイヴァンは答えた。
そして二人はほぼ同時に掃除を再開しようかと手を動かそうとした時、ガチャリと教室のドアが開き一人の女生徒がつかつかと入ってきた。
「ベルじゃないか、どうした?何か用事か?」
 部屋に入ってきたのは戦略科2年、ベルティーナ=ヴィスコンテッサ=ダ=フォルテ。
校内でもベスト3に入る成績と剣の腕、そして王国中に鳴り響く美貌と美声を持ち、社会的には子爵位を持つ伯爵家公女で、まさに無双の名声を備えた才女であった。が、イヴァン達のところまで歩み寄ると冷たい双眸でイヴァンを一瞥した後、クラリーチェに向かって言った。
「クラリーチェさん…でしたわね?」
クラリーチェは姿勢を正し、右手を左胸に当て一礼をする。
「はい」
ベルティーナはクラリーチェに返礼すると口を開いた。
「あなたは今から私の代わりに錬金室のほうに行ってくださるかしら?イヴァンは今からわたくしと職員室に行きますので」
「わかりました。じゃあイヴァンまたあとでね」
そういうとクラリーチェはイヴァンに手を振って教室を後にすると、
そのあとにはなぜか冷たい瞳でイヴァンを見つめるベルティーナとイヴァンが残った。
イヴァンは無言で見つめるベルティーナになんと声をかけていいかわからずとりあえず笑顔を向けてみた。
「…」だが効果はなかったようだ。数瞬の間そのままだったがベルティーナはあきれたようにふぅと深くため息をつくと、いつもの雰囲気に戻っていた。
「さ、いきますわよ」
「ああ!」
イヴァンはベルティーナについて教室を後にしたが、やはり先ほどのことがきになったのでやめておけばいいのに尋ねてみた。
「ベル、さっきはどうしたんだ?」
ベルティーナはそれを聞くと立ち止まりこぶしを握り締め目をとじた。がすぐに気を取り直して歩き出す。
「なんでも、ありませんわ…」
「そっか、それならいいんだが、いろいろ大変だったしきつかったら言ってくれ。力になるから」
「そ、そうなんですの?じゃ、じゃあそのうち何かお願いしますわ」
 歩みを止めずベルティーナの背後にいるイヴァンには表情は見えなかったがベルティーナは急におどおどとした口調で答えた。
 「ああ、その時はなんでも言ってくれ」
そのあとしばし無言の時が流れたが職員室までたどり着くにはもう少し時間がかかる。
なんだかいつもと様子の違うベルティーナにいぶかしみながらもまあいいかと黙ってイヴァンはベルティーナの後を付いて行った。
あと少しで職員室というところで急にベルティーナは立ち止まり、くるりとイヴァンに振り返ると胸のところに片手を置き、
うっかり忘れてたとばかりにしゃべりだした。
「そういえばイヴァン、今朝ね、王都にある屋敷から馬が届きましたの。厩舎につないでおいたのであとで見てくださる?」
「え?まさか馬くれるってほんとだったの?」
おどろいたイヴァンはまさかという風で言った。