神飛行機
「この紙飛行機も落としてやろう!」
成金男は布袋から、1万円札の紙飛行機を取り出した。そして、勢いをつけ、
「そらよ!!!」
紙飛行機を景気良く、空に向かって飛ばした。紙飛行機は、きれいな飛びかたをして、地上に降りていったのだが、成金男はそれを眺めることはできなかった……。
「うわ!!!」
勢いをつけて紙飛行機を飛ばした拍子に、彼は足元のバランスを崩してしまっていたからだ。踊り場のすぐ横は下り階段で、彼は必死にバランスを取っていたが、寒い強風にあおられたことが決め手となり、
「うわ〜〜〜!!!」
下り階段を勢い良く転がり落ちていった……。彼が持っていた布袋は踊り場に落ち、中から大量の1万円札が飛び出し、むなしく空を舞い始めた。
階段を転がり落ちていった彼は、転がり落ちた先にあった階段の手すりに、思い切り頭をぶつけた。打ちどころが悪かったらしく、彼は頭から血を噴水のように噴き出させた。彼は薄れゆく意識の中、蝶のように宙を舞っているたくさんの1万円札を見ていた。それを眺めながら、彼は死んだ……。
そのころ、地上では、成金男のことなど気にもしない金の亡者たちが、まだ降ってくる1万円札を狂ったように集めている……。
そんななか、同じように金を集めていたホームレス男性の1人が、空から降りてきている1万円札の紙飛行機を見つけた。彼はそれに興味を抱き、金集めを一時停止して、紙飛行機を追いかけ始めた。まるで吸い寄せられるような感じだったが、どんな心理状態だったかについては、誰にもわからない……。
紙飛行機は公園から出て、付近の大通りの上空を飛び始めた。大通りには、正月にもかかわらず、多くの車が行き来していた。しかし、紙飛行機の追跡に夢中な彼は、まるで気づいていない様子であった。そんなわけで、ボールを追いかける子供のような調子で、彼はためらうことなく大通りに飛び出した……。
キキィーーー!!!
当然、大通りを走る車はパニック状態となった……。1台が彼を避けると、別の1台がその車を避けなければならない。そのような連鎖が一瞬のうちにどんどん続いた後、ガソリンスタンドに向かう途中のタンクローリーが避ける番となった……。しかし、道路に避けるスペースは無く、公園内に突っ込むしか他に無かった……。
ちなみに、取り憑かれたように紙飛行機を追いかけている彼は、その直後、我が物顔で走行していた青い都市バスに轢かれて死にました……。
公園内に突っ込んだタンクローリーの運転手は、ブレーキをかけようとしたが、段差などの激しい振動により、ブレーキペダルをうまく踏みこむことができなかった……。タンクローリーはベンチや植木などを破壊しながら、ほとんどスピードを緩めることなく進め続け、前方に空から降ってくる金を集めている金の亡者たちが見えてきた……。金集めに夢中の彼らは、トラックの接近にまったく気づいていないようだ……。
当然のことだが、運転手はクラクションを鳴らして、金の亡者たちに危険を知らせようとした。しかし、同じく激しい振動により、うまく鳴らせない……。運転手は焦りながらどうしたらいいのかを考えたが、『目の前に金集めに夢中な金の亡者たちがいるかもしれない』ということなど、どうしたものかとなるのは当たり前だ。