神飛行機
ちなみに、スリが持っていた紙飛行機は、衝突の勢いでスリの手から飛び立ち、道路の上を何事も無かったように飛び始めた。そして、向こう側の車線まで飛んだときに急降下し、走行していた車のフロントグリルにくっついた。紙飛行機の機首が、うまくフロントグリルの空気吸入口に突っ込んだので、しっかりと車にくっついている状態であった。
紙飛行機がくっついているその車は、目立つフロントグリルが特徴の黒塗りの車で、成金が乗りたがるような高級車であった。その車は、地元ではよくある類のトラック事故を尻目に、街の中心部へと走っていく。乗っているのは、いかにも成金といった様子の初老の男の運転手だけであった。
車は、街の中心部にある地下駐車場で止まり、運転手の成金男が車から降りる。ハゲている成金男は、手に布袋を持っており、ウキウキしている様子であった……。彼は、車のカギを締め、地上へのエレベーターに向かおうとした。
「ん?」
そのとき彼は、フロントグリルにくっついている1万円札の紙飛行機に気づいた。そして、紙飛行機をフロントグリルから引き抜き、
「誰だ? こんな粋なことをしたのは?」
1万円札で折られた紙飛行機を楽しげな表情で眺めた後、紙飛行機を布袋の中に放りこみ、エレベーターに向かって歩いていった。
「ふふふ、おもしろくなりそうだ」
不気味な口調の成金男は、地下駐車場のすぐ近くに建っているタワーの階段を昇っていた。街のランドマークの1つであるそのタワーの下には公園があり、ホームレスや街の人々がいた。
「ここでいいだろう」
彼は階段の踊り場で立ち止まると、布袋の中に手を突っ込んだ。そして、布袋の中から取り出したものを、
「ほらよ!!!」
下へバラ舞いた……。
成金男がバラ舞いたのは、大量の1万円札であった……。彼は、株取引で大儲けした成金であった……。彼は、働かずに手に入れた大金を、貧乏人にバラ舞いてみたくなったというわけだ……。彼は、人々が自分の金に群がることに快感を見い出したいようだ。
「おおっ!!!」
……どうやら、彼は快感を得ることに成功したようだ。
「金だ!!! 金だ!!!」
「ラッキー!!!」
突然、空から1万円札が降ってくるのを見たホームレスや通りかかった街の人々は、一斉に金をつかんだり拾ったりし始めた……。生活苦な人ならまだしも、豊かな暮らしを送っている人までもが金の亡者となり、狂ったように金を集めている……。それを、成金男は上からそれを眺めて喜んでいる……。それはまさに、現代の人間が創り出した混沌な光景の一部であった……。