神飛行機
神社の近くの歩道は、お参りをしにいく人々でお参りを終えた人々で混み合っていた。お参りに行く人々は人の多さにげんなりしており、お参りを終えた人々は満ち足りたような様子であった。騒々しい初詣の歩道の近くには、パトカーが止まっており、正月出勤の警察官が、人々を誘導したり、馬鹿騒ぎが起きないように見張っていた。
そんななか、初詣など関係無いという男がいた。その男は、参拝客を狙うスリであった……。すでにいくつかの財布が、彼のフード付きコートの二重底になっているポケットの中にあった。彼は「仕事」を終えた帰りで、警察官の前を堂々とした足取りで歩いていった……。
{お参りに来た連中、願い事に夢中で、財布を抜かれていることにまったく気づいていなかったなw}
スリは、心の中で大笑いしていた。顔に出そうなほどだったので、さりげなく顔を下げた。
顔を下げた拍子に、後頭部に紙の感触があった。スリは、コートのフードの中に何か入っていることに気づき、その何かをフードの中から取り出し、目の前に持ってきた。
「これはついているな!」
その何かを見たスリは、思わず嬉しそうに言った。
それは、1万円札で折られた紙飛行機であった。先ほどの2人の学生は、この紙飛行機がさい銭スペースに落ちたと思ったわけだが、落ちた先は、このスリが着ているコートのフードの中のようだった。ちょうど「仕事中」だったため、スリは今まで気づかなかったのだ。
「キャーーー!!!」
そのとき、ヒステリックな女性の叫び声が、前方から聞こえてきた……。
{自意識過剰なブスが、痴漢されたと叫んでいるんだろう}
スリはそう思いながら、紙飛行機から目を離し、前方を見てみた。
大型トラックがこっちへ暴走してきていた……。尾張小牧ナンバーのトラックの上、甘酒で泥酔している運転手だった……。『キチガイに刃物』の状態だといえる……。
「やばい!!!」
スリがそう叫び逃げ出したのは、トラックがガードレールを突破して、自分に向かってくることに気づいたときであった。周囲にいた人々は、一斉に逃げていっていた。
しかし、スリは、盗んだ財布を何個もポケットに入れているせいで、重くて走ることができなかった……。財布を捨てようにも、それを警察官に見られたらおしまいだ。だが、スリが財布を捨てる捨てないかを悩んだのは一瞬だけのことだった。なぜなら、
ドォーーーン!!!
暴走トラックに衝突されたからだ……。悩みは体と同じようにブッ飛び、スリは歩道を勢いよく転がっていく……。トラックの衝突で、すでに体がぐにゃぐにゃに折り曲がっている有り様だったが、歩道を転がっているうちに、さらにぐにゃぐにゃとなり、とうとう手足がちぎれ飛んだ。そして、芋虫のような残りの体は、パトカーのフロントガラスに突っ込んだ。そのときには、スリはもう死んでおり、トラックは歩道沿いにある神社の木々によって止まっていた。
ちぎれ飛んだ手足は、歩道にさまざまな赤い曲線を筆のように描いており、残りの体は、突っ込んだフロントガラスに赤い花を表現していた……。