神飛行機
屋台に向かっている学生の頭の中には、何を食べるかということしか無かった。屋台からの美味しそうな匂いをかいでいるので当然の反応だったわけだが、腹ぺこの状態であった彼は、松明が目の前にあることにも気づかなかった……。
ガシャーーン!!!
彼は、鳥居近くにあった松明に思い切りぶつかり、松明が自分に向かって勢いよく倒れてきた……。突然の出来事だったので、彼は何が起きたのかが理解できず、気づいたときには、
「うわぁーーー!!!」
遅かったのである……。
倒れた松明の炎が、下じきになった彼の服に、すらりと燃え移っていた……。燃えやすい素材の服を着ていたことが、すぐに燃え移った原因だった。そして、すぐにその炎は、服だけでなく、体を燃やし始めた……。髪の毛がチリチリと鳴っている。
彼は、早く倒れた松明から抜け出して、炎を消そうと思ったが、松明は重く、自分1人では無理だった。
「あつい!!! 助けて!!!」
彼は近くにいた参拝客や警備員に助けを求めた。
しかし、混雑してうるさかったため、彼の叫びは打ち消された……。参拝客は、自分の願い事に夢中で、わざわざ鳥居で頭を垂れていたりするだけだった……。警備員は、行列の整理に夢中で、近くで人が燃えていることには気づいていなかった。どちらも自分のことに夢中というわけだ。気づいたとしても、見て見ぬふりされるかもしれないが……。
「た……たすけ……」
とうとう、彼の全身に炎が回り、彼は炎に包まれながら、断末魔の叫びを小さくあげた……。そして、力尽きた……。そんな彼の近くを、自分の幸せしか考えていない参拝客が通り過ぎてゆく……。
「あいつ、どこにいるんだろう? ケータイもつながらないし」
クソ真面目に並んでお参りしてきたさっきの学生が、先に屋台のほうへ向かったはずの学生を探していた……。鳥居の前を歩いていたとき、コゲ臭いニオイがしたが、彼は気にせずに進んでいった……。
彼が探している学生は、倒れた松明の下で炭になっていた……。