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「いらっしゃい。リビングへどうぞ」
「にゃお」
いつものキミが、ボクの後ろをついてくる。
キミは、敷物の所に止まらず、ボクの机のところまで来た。
机の上の原稿用紙をちらりと見たキミは、ボクを見上げた。

原稿用紙には 万年筆で書かれた文字。何度も二本の線で消されては書き直してある文字。
キミが来るとメールで知ってから、なかなか書くべき言葉が浮かばないでいた。
そういうふうにいえば、どれだけキミを待っていたかということになるのだが……。
今までボクは、キミがいてもペンが走っていたのだから、待ち遠しくても すらすらと書けているはずだ。
実は、依頼されたモノのイメージが、どうしても浮かばない。そのものをよく知らないからだと思うのだが、どうしようか?
キミなら知っているかな……。

「コレ 書いてたの?」
「うん、そうなんだけどね。スランプかなぁ、浮かばないんだ」
「にゃんと。そっかぁ……じゃあ行ってみよう」
またキミが、主語の欠乏した言葉をボクに投げかける。はて、何を言っているんだろうとボクの思考はフル回転モードになろうとしている。原稿のことより、思い巡る速さは数倍早いかもしれないな。
「お出かけ お出かけ 行きますよん。鞄に詰めて お仕度してね」
積極的なキミに急かされながら、ボクは、手提げに原稿用紙と万年筆を突っ込んで、上着を羽織った。玄関で靴を履いて待つキミを見つめながら やっぱり変わってしまったのかな、と思うボクだが、明るいキミの笑顔はやっぱり変わっていない…可愛くていいなとボクの口元は緩んだ。
「はい、お待たせ」
作品名: 作家名:甜茶