蝶
外は、いつの間にか陽気の良い季節に変わっていた。
上着が邪魔に思うほど、陽射しが柔らかく暖かい。そういえば、キミは、ブラウスにパステルカラーのカーディガンを羽織っているだけ。柔らかな生地の膝丈のスカートがひらひらと揺れるたび、少しヒールの高いパンプスから伸びた脚に ボクはちらりと目を奪われてしまう。
肩よりも少し長めの黒髪の先が くるんと軽く弾んでいた。
ほんの僅かの間に 少女だったキミが変わってしまうなんて 全く女の子って不思議だな。
でも 悪くない。
キミと並んで歩くボクは、キミのことが頭いっぱいに膨れ上がってしまった。
ふと、ボクを見上げたキミと目が合った。あれ? ちょっとしたこの違和感はなんだろう?
そうか、キミの履いているヒールのパンプスが、ボクとの背の差を縮めていた。
「何?」
キミの視線が、ボクの目を通り過ぎて、どんどん逸れていく。どうしたことか?
「どうしたの?何処へ……」ボクの言葉に キミの言葉が重なった。
「ちょうちょ」
(ん?ちょっと?)また何を言い出すのかと、キミの視線を追いかけようとしたとき、ボクの視界に ヒラヒラと白いものが映った。
「あ、モンシロチョウ」ボクは、久し振りに…… あれ、いつから見ていないだろう……。
就職活動をしていたボクが、汗ばむ黒のスーツの上着を脱いで、公園のベンチで清涼飲料水を飲みながら腰を下ろしていたときのこと。
その横にあった水飲み場の台に止まった蝶を見たのが 最近だった気がする。
「おまえも 休憩かい? お互い暑いな。暫く一緒にここに居ようか」などと、友達にでもなったように話しかけていたこと思い出した。
まだ、初夏になったばかりの晴れた日に見たあの蝶は、お洒落をしたようなアゲハ蝶だった。青い筋がきらきら輝いていて、誇らしく見えた。ボクも頑張ろうと思ったっけ。
そして、秋のかかりに内定を貰った。まあ、その後は、かくかくしかじか、今に繋がっているのだ。