社会保障番号 Hiroko
敵の敵は味方。内部の敵。私は内側から党を分裂させる
私は、この閉塞感に満ちた日本をなんとかしたいと幼心に感じた。大人たちは上手に本音と建前を使い分けている。選挙で党が負ければ、党とは無関係の、政党支援会の人たちに鞭打ち100回と罰金100万円の刑罰がある。女性の場合は、スタンガン50発を入れられる。だから必死になてって、選挙活動をする。
「好きでもない人。苦手な人でも、ここに知り合いの名前と電話番号を書いてください。選挙宣伝のノルマは一人で、最低でも100人です。嫌いな人でも嫌がらず声をかけてください」
「はい」
「地元の議員が選挙に勝てば、町内をよりよくするために設備投資をします。もし負ければ、『赤刈り』をします」
大人たちにとって、選挙の時期は、とても憂鬱だ。そして、嫌いな人にも電話で声をかけて、党の推薦議員に投票するようにしむけられる。
『こんなのは近代議会政治ではない。でも、党には逆らえない』
都心にいる人たちは、まだ思考が停止していないだけあって、内心、反発心を感じているが、田舎の人たちの大部分は、何も考えず自動的に党が推薦する議員に投票する。
農家、商店など田舎に住む人たちは、この全体主義社会では勝ち組なんだろう。年々、上がる公共料金に住民税、欲しいモノが買えない。生活必需品も徐々に手に入らなくなる。年々、生活に貧しくなっても、田舎に住むと政治について何も考えられない。田舎の年配者は政治に無関心。とても貧しい生活でも、不平不満を持たないが、大都市に住む人たちは、不満が今にも爆発しそうである。
「ばあさん。今月も電気と水道が止められた」
「公共料金が値上げしたから」
「今月は先月の3倍。まあ原子力発電所がたくさん作れば、電気代が下がるだろう」
「そうですね。ねえ、息子のところにしばらく居候しない。でも、自転車もパンクで修理するところがないし」
「そうだな。個人商店は十数年前に全部閉鎖。それでアメリカ資本の巨大スーパーマーケットに行かないと、どんなにお金があっても何も買えない世の中になった」
「ねえ、息子が住むところを歩いていくには」
「鉄道も廃止され、アメリカ資本のバス会社が独占。運賃も高い」
「線路の上を歩いて行きましょう」
古くなったペットボトルに水をいれ、JR幹線路線を延々と歩き続ける。ほとんどが高速バスに取って代わられた。都心ではバス会社がたくさんあり、そのほとんどがアメリカ資本。日本はアメリカの植民地。農家では比較的に経済的に余裕あるところでは、バイオエタノールや古くなった天ぷら油で発電機を夜動かす。それでも1日3時間しか電気が使えない。
党は新米保守政権。言いたいことを行ったら最後。精神異常者として精神病院に入れられる。政治犯として連れて行かれる。
作品名:社会保障番号 Hiroko 作家名:ぽめ