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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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コウタと嘉助と浜昼顔

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「ああ、お母さん」
 ふり向いて答えたコウタの顔を見て、お母さんはびっくりしています。
「まあ、何を泣いてるの?」
 でも、お母さんはとてもあわてたようすで、コウタが泣いているわけも聞かず、車のドアを開けながらいいました。
「早く乗って。今携帯に電話がきて、ひいおじいちゃんの容体が急に変わったんですって。もう一度病院に行かなきゃ」
「ええ?」
 コウタはおどろきながらも、とっさに浜昼顔の花をつむと、車に乗り込みました。
 お母さんといっしょに病室にはいると、おばあちゃんやお父さんはもうきていました。
「コウタ。間に合ったよ。さ、そばにおいで」
 おばあちゃんが手招きしました。ひいおじいちゃんはかすかに息があります。コウタはそばに寄って、浜昼顔の花を胸にのせました。
 ひいおじいちゃんはわずかに顔をコウタの方に向けて、ほとんど聞こえないような小さなかすれた声でいいました。
「ありがとう」
 コウタはひいおじいちゃんの手をにぎり、
「ひいおじいちゃん。ぼくたち友だちだったね。いっぱい遊んで楽しかったよ」
と、涙をこらえて笑いかけました。
 ひいおじいちゃんは少し口のはしをあげて、笑ったような顔を見せてからゆっくりと目をとじました。
 
 コウタは学校帰りに、ときどき銀行の駐車場によります。浜昼顔に会うために。
 アスファルトのすき間から、いっしょうけんめい顔を出した浜昼顔は、金あみのさくの上の方までつるをのばし、夏になるとかれんな花を咲かせます。
 でも、秋になって、たった一輪だけ季節はずれに咲く花こそが、コウタの、そして嘉助のたいせつなケンタの花なのです。