(続)湯西川にて 6~10
(続)湯西川にて (8)白浜温泉郷を北上中
房総半島の最南端、野島崎の近辺には、複数の一軒宿が点在をします。
一軒宿といってもリゾートホテルや、民宿などがその中心です。
宿毎に温泉の呼びかたが異なり、白浜温泉以外にも、白浜野島温泉、
南房総白浜温泉、白浜女来島温泉、白浜南国温泉などを名乗ります。
そのために、狭い区域にひしめくこうした小さな近隣の温泉を一括して、
白浜温泉郷という名称で呼んでいます。
南房総は、1年中温暖な気候に恵まれているために、
年間通じて色鮮やかな花々が咲き乱れ、都会からわずか数時間で
南国気分を味わうことができます。
なかでもいま、清子がハンドルを握っている「房総フラワーライン」は
有名です。
館山市下町の交差点から、クジラの町として知られる和田町までの
46キロの区間は年間を通じて花と景観の美しさが楽しめる、
人気を誇るドライブコースです。
海岸と道路の間には、冬季の強い南西の風を防ぐためのクロマツの林が、
いたるところでその広がりを見せていきます。
道路沿いには洲埼灯台、館山ファミリーパークや、南房パラダイス、
ゴルフ場や館山野鳥の森、安房神社などといった、観光ポイントが数多く
連続をします。
空気の澄んだ日には、富士山や大島・利島などの伊豆諸島などを見ながらの
ゆったりとした、眺望の良いドライブなども楽しめます。
「太陽の光をさんさんとあびて、白い砂浜を見ながら
熱帯樹が茂る南国情緒のハイウェイをドライブすることが、
私の念願だったの。
まさかあなたのおかげで、こんなところで、
思いもかけずに、実現するとは思ってもみませんでした。
清子、今日はとっても感激だわ~!」
「白馬の王子様でも乗って居れば最高だけど、ね。
悪かったね。
せっかくの機会なのに、君の助手席に座っているのがこんなしょぼくれた、
何の取り柄もない、病み上がりの板前さんで・・・・」
「あら・・・・まだ何も、不平をなどを言っていません。私は。
助手席がどうであれ、見渡す限りのこの景色は、
心に染みてすこぶる素敵です。
やっぱり良かった!
お休みを取って、はるばると此処までやって来た甲斐が有りました」
「あれ、・・・・君は
場所が、風光明媚な房総だからというだけで、ここまで来てくれたわけ?
景勝地だから来たけれど、普通の場所だったら俺のことを、
無視をしたのかな。
たった今、そんな風に君から本音が聞こえたけど」
「あら、何をひがんでいるの。あなたは。
そんな風に聞こえてしまったかしら。
でもね、芸者の清子さんは、それほど冷たい女じゃありません。
一度は心の底から好きになった、
数少ない男性のお一人ですもの。あなたは。
そのひとが困窮をしているのなら、また、
いつ何どきでも、きっと・・・たぶん・・・・
清子は、駆けつけると思います」
「なんだかねぇ・・・・ずいぶんと曖昧な表現ぶりだ。
今はもう昔と違って、すっかり愛情も冷めていますと、言っているように
たったいま、俺には聞こえたぜ」
「あなたは、私に何を言わせたいの?
貴方の口車に乗って、その気になってついうっかりと
女の本心などをしゃべってしまったら、私は房総から帰れなくなって
しまうかもしれません。
危ない、危ない・・・・
とにかく、お口にはしっかりとチャックをして気をつけましょうね。
うっふふふ
あ。あら、ねぇ、さっきから気になっていたんだけど、
通りに沿って、クジラ料理の案内看板が、どんどんと増えてくるわ。
この辺りってクジラ料理が名物なのかしら、
ほら、ほら。あんなに大きなクジラのモニュメントまで、見えてきた」
「君は、実に、話題をはぐらかす天才だ。
また、肝心の話を、うまく誤魔化されてしまったようだ。
あそこに建っているモニュメントのクジラは、
日本には4つしかない沿岸捕鯨の基地のひとつ、
和田町が近づいてきたという証明だ。
かつては内房総の港に有った沿岸捕鯨の基地が、
時代と共に南下をしてきて、
今はこの先の和田町に定着をしたという印さ。
そう言う意味で言えば、そこに見えている太平洋のこの遠浅の海は、
実は、クジラが移動をしてきた、歴史の道でもあるのさ」
「クジラが、移動をしてきた道?。
捕鯨って・・・・
氷の浮いている南氷洋まで大型船団で出掛けて行って、
大砲を使ってあの大きなクジラを、ドカンと捕獲をする、
あの捕鯨のことなの?
体重が100トン以上も有って、地球上で最大の生き物と言われている
シロナガスクジラとか、全長が25mもあるという
ナガスクジラのことでしょう。
こんな近海でも、同じようにクジラたちが捕れるの・・・・」
「和田町で捕っているのはIWCの規制を受けていない、
小型のツチクジラたちだ。
それでも、体長は11mあまり有るし、重さは11トンもある。
北太平洋の温帯から、寒帯の海域に生息をしているクジラの仲間だ。
千葉県では1612年に発生して以来、沿岸捕鯨として、
営々と受け継がれてきたもので、小型船を使ったクジラ捕鯨のことだ。
もちろん、資源を保護するためにそれらにも制限は、
ちゃん決められている。
日本政府による厳重な管理下のもとで、
和田、鮎川、網走、函館を基地とする小型捕鯨船に限られていて、
獲っていいのも、年間62頭という上限が決められている。
小型捕鯨船の大きさも、47.99トン以下と決められているし、
捕鯨に使う50ミリ砲も、1門だけと制限されている。
和田町の場合、漁場は、大島から銚子を結ぶ房総半島の沖合で、
岸からは8~40kmまで、水深は、1000m以上の海域にかぎると、
どれをとってもすべて厳しく、定められている」
「へぇ・・・・捕鯨に関しては、ずいぶんと詳しいわね。俊彦は」
作品名:(続)湯西川にて 6~10 作家名:落合順平