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フィルムの無い映画達 ♯02

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蟻の如くになる薬



 F博士は或る薬の製作に取り組んでいた。その薬とは怠け者を勤勉にする薬である。薬を作るにあたって博士が注目したのは働き蟻である。
 
 まず初めに――せっせと餌を、巣に運び続ける労働意欲の高い働き蟻。そういった蟻だけを集め、その体内に含まれる成分を抽出する。これが溶液サンプルA。

 そして次に――だらしなく足を折りたたみ、まったく動こうとはしない労働意欲の低下した蟻。そういった蟻だけを集めて、その体内の成分を抽出する。これが溶液サンプルB。

 最後に――溶液AとBの成分を比較して、Aにのみ含まれていて、Bには含まれていない成分を分析する――見つけた!働き者の蟻だけが持っている成分、この成分はきっと、労働意欲に関係している成分に違いない!その成分だけを溶液Aから分離して、精製、濃縮する。

 完成――働き蟻に含まれている謎の成分――労働意欲向上成分を精製することに成功した――F博士の仮説が正しければ、この薬を投与する事によって、怠け者を働き者に変える事が、可能になるはずだ。

 実験――上記の方法で精製した薬液を、怠け蟻の食事に混ぜて与えてみる――すると……怠け蟻は、突然動きを速め、まるで蟻が変わったかのように、キビキビと餌を、巣穴に運び込むようになった。まず実験は大成功。後は人体実験を残すのみ。
 
 人体実験――F博士は、ニートの息子にこっそり薬を飲ませる事にした。F博士、息子の食事に働き蟻から精製した液を数滴垂らすと、毎朝そうしてきたように、ドアの隙間から食事を差し入れる。

 待つこと十分――心配気にF博士が見守っていたドアが、バーンと勢い良く開き、かつて無い機敏な動きで、息子が部屋から飛び出してきた。

「やった!実験は成功だ!」

 博士は飛び上がって喜ぶ。

「さぁ息子よ。早速お前に相応しい仕事を探しに、街にでかけようではないか!」

 F博士の呼びかけに聞く耳持たず、息子は台所に行き、冷蔵庫からパンを取り出すと、庭に出て蟻の列に並んだ。