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Lipstick

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Lady Soul



「、、…るんだからぁ

     いつもおフロから出ると ここに座ってて

       ずぅ〜〜〜とペタペタしているのよぉ

      もおぉぉっ

     ずぅぅ〜〜ぅ〜〜っとなんだもん〜


    ペタペタ

      ペタペ


   ペペタペタ

    ペタタ

      ペタペタ

     タペタペ


        ペタペタ


  いつまでたっても すました顔でペタペタしているわ

   ママが鏡の前に座るのを見てから
   パパとおフロに入って 出てきたらね
   まだペタペタしてる時があるんだからぁ
   いつもはグズグスしないでって言うのよっ

    そんなの信じられる?

   __クスクス♪

「このビンの水をペタペタしているみたい

   __いろんな色のビンが並んでいるネ

「ヘンな香りのする水が入ってるの

   __ビンじゃないのもあるわ

「コレでしょ
       コレは不思議な筒なの

   __ピカピカしてるね
     でも さわっちゃダメって言われてなかった?

「アナタは いつも そこから眺められるからよ
      ワタシが見てるとママはこまった顔をするわ

   __なんでかな?

「わからないわ でもこの筒が頭からはなれなくなっちゃって
        眠れなくなったわ

         夢もみたの

   __夢?

     そういう夜はね 羊を数えるのよ
             パパが言ってたもん

「おっきな ライオンさんが出てきたわ
      あの筒をワタシにあげるよって

   __ライオンがしゃべったの?

「大きな口で言ったのよ

   __へんなの〜

「でも ウシさんも出てきて
    筒にさわっちゃダメだよって言ってたわ

   __さわっちゃダメだもん そうよ

「・・・  その後にさぁ あっ!

   __うん

「ライオンさんが 食べちゃったの

   __なぁに?

「ウシさん

   __えぇぇぇっ! 

「すごく怖くなって すぐに眠ってしまったわ

    だから決めたの

  __食べられなくて よかった

「この筒をさわってみることにするわ

  __怒られちゃうよ そんなの

「ママはこわいけど 食べられるよりいいもん

    手伝ってちょうだいよ

  __でも見つかると、、

「ヒミツだってば

     ・・・・
     ちょっと まってて


  __だいじょうぶ?

「 フゥ〜
     、うん、なんともない


  __あっ


 少女は鏡台の前に並べられた化粧水の瓶の隣に立てられていた口紅の様子を、人形のような指で、ちょんちょん、と確かめてから決心して掴み取った。少女が生まれてはじめて口紅を手にした瞬間である。その小さな指は金色の筒をそっと瞳の前に引き寄せ、じっくりと眺めてみた。ためらいなくキャップが引き抜かれると、それは運命のようにクルクルとひねられていく。すると暗い筒の中からは魔法の力で固められてしまった蝋燭の炎のようなものがあらわれてきた。母親はこの魔法の筒を使う時、いつも決まって言う不思議な言葉がある。
『ママ きれい? 』
「うん ママ とってもきれい 」
 でも、少女には母親の口元が赤い色に染まったのは分かるが、実はそれが奇麗なのかどうかということをちゃんと分かってはいなかった。まだ母の言う奇麗の意味が理解することが出来なかった。
 はじめのうちは「好き」が沢山あるってことなんだと思っていた。なぜなら少女は口紅を塗った母親のことが大好きだったから。でもなんだかそれが違うってことも近頃分かってきていた。

「思ったとおりよ
  なんてピカピカで なんて軽いんでしょう
           ワタシがうつってるわ

  __キャップをとってみて

「こうかな

  __そうそう
         いつもクルクルひねってるよ  ね♪

「すてきなかたち…
  わぁ 誕生日にみた ロウソクみたい
   なぜかな… ちっとも動かないのに とっても楽しくなるの


 少女はただ「綺麗」というものになってみたかった。母親があんなにも執着している奇麗というものは一体どういう力があるものなのか、この魔法の筒を使えば理解できるのかもしれないと思いこんだ。
 やがて魔法で固められた炎の先端をゆっくりと口元に近づけていった。口元まで紅を引きつけてみると、その炎の先端は少女の視界から消えてしまう。もちろん鏡を見ながら口紅を操作するような芸当は少女にはできっこない。そのまま口紅を握っている指を見ながら、気持ちのままに口紅をひいてみた。そうやって口の回りを一周させた後、また鏡を覗きこんでみる。

 鏡の中には口の回りを赤くした女の子が現れた。
 母親が塗ったのとはなんだか感じが違ってはいるけれども、そんなことは気にはならなかった。少女にとってはそのことはそれほど重要な問題ではなかったし、ともかく母親がやっているのと同じふうに魔法をかけたのだから。

 少女は注意深く鏡の中の女の子の顔を観察していた。
 紅を塗った部分だけは確かにいつもとは違ってみえていて、だけども特別に何かが変わった感じもしなくって、一向に魔法の効力が表れてくる様子はみられなかった。
 二人はお気に入りの笑顔をお互いに向けてみる。でもやっぱり未知の扉が開かれるような魔法の気配は一向にみられない。
 少女は少し落胆したけれども、あきらめきれずに顔の角度を変えながら、いろいろな方向からの仕草を試してみることにした。

作品名:Lipstick 作家名:夢眠羽羽